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「そう言う、そう言うティタニアはどうなのです? やはりマキア様ですか?」
あ、それ私も気になってた。
トゥクイの質問にティタニアは艶かしい笑みを浮かべる。
「マキア様は確かに尊敬しているけれど……どちらかというと、美しく強く魅了に全く靡かないあの方を、いつか堕としてみたいと……そう思ってるの」
「相変わらずね、ティタニア」
「まあ、ソルナが現れた時点で私に勝機はないけれど」
ウンディーネが精霊酒を傾ける。
「……ところで、ところでソルナ。彼らは放っておいて大丈夫なの?」
「え、何が?」
トゥクイの視線をたどると、
「ふあ、足がふらふらする気がします。気のせいですね……えへ、なかなかおいしーではないですか……」
気のせいではないと思う……。
そう言ってリヒトがまた精霊酒を飲み干す。
「うっ」
さっきから黙って精霊酒をちびちび飲んでいたケイトが、音をたてて机に突っ伏した。
「……蟒蛇め」
「ふふ、いつにもまして可愛らしい恰好をしていますね主君……」
蛇の化け物に形容された当の本人は、そう呟いて虚空を見つめ、精霊酒をあおった。
お、おいおい。パニーは何をしてるの? 明らかにアイツら大丈夫じゃないんだが?
止めてこようと腰を上げると、肩をぐっと後ろに引かれた。
「おわっ!?」
「たまには羽目を外してもいいでしょう。ねえ、トゥクイ」
「はいおねえさま、おねえさま!」
まあ、そうか。
先人の教えもあることだし、そうしよう。
「ところで、ところでソルナ」
ずいと身を乗り出したトゥクイ。
女子会はしばらく終わりそうにないね。
どうしてこうなった。
「おいしー、おいしーですよ主君」
「なかなかやるじゃねェか」
「えへへへ、あは、楽しーですね! ケイトもそう思います?」
「うぐ……」
「あれどうしたんですか? あははっ、兄貴の割には弱っちいですねーもうダウンですか?」
誰が渡したのか、茶碗みたいな器を片手にケイトの背をバシバシ叩くのはリヒト。
誘ったパニーもかなり飲んでるんじゃないかな。
「ふあ、主君! 聞いてください、ケイトが二杯とちょっと飲んで沈んじゃったんですよー」
言いつつ、一体何杯目なのか分からないが器を勢いよく傾ける。
はふぅ、と赤みのさした顔をあげた。
「主君ー僕良い子だと思いますか?」
「いきなりどうしたって言いたいけど一応いい子だと思うよ」
たぶん、たぶんね。
いい子がこんなに酒飲むんか知らんけど。
「聞きましたかぁケイト、僕主君に褒めてもらっ……」
がくんとリヒトが椅子から転げ落ちた。
尻餅をついてにへっと笑う。
「あっはははおっかしー、ぐるぐる回って楽しいんですかケイトー?」
回ってるの君の視界の方じゃない?
でもって酒おかわりするんじゃない!
「ほどほどにしとけって言ったじゃん……」
「だいじょーぶですよ主君、よいそーになったらやめますから!」
「既に手遅れだよ馬鹿野郎」
私はため息を吐いた。
視界の隅では顔を青くして転がるケイト。
双子なのにどうしてこんなに差が出るのか……。
「やだなぁ主君ー、よってなんかないですって。僕は僕のままですよ?」
カラカラ笑ってついでに酒をあおる。
ダメだこれ。
ねえ、向こうの机で酔いつぶれているカイリュウとランビとエンマは幻覚かな?
「ふ、ふふふ、こんなに飲んだのは久方ぶりでありますな……」
「竜宮城でお茶目をして、酒樽を空にしたとき以来か。なあ、ランビ」
「……」
べろんべろんの二人に話しかけられたランビは、黙ったまま。
「おいカイリュウ、ランビの応答がないぞ」
「はっははは……奴は我らの中でも最弱……」
「起こしてやれ」
「エンマこそ声をかけてやってくださいよ……」
酔っぱらいどもめ、面倒な役を互いに押し付け合っている。
「主君、主君……お空に手が届きそうですねえ……ふふっ、しゅくん-」
こちらもこちらで大変だ。
君には今何が見えているのか教えてくれないか。
「パーノ……何をしているのですか」
「よォマキアちゃん。コイツなかなか面白い奴だぜィ」
「ふへぁ……血迷いましたか……ん、レルバきさま……」
また別のものが見えているらしいリヒトに、パニーは愉快そうに笑った。
「ご主人様に迷惑をかけないでください」
「あの別嬪サンにゃ手は出してねェよ」
「そうなったら消しますので」
にこやかに脅迫をしないでいただきたい。
リヒトが新しく精霊酒をついだ。
「今夜は飲み明かしましょう! あはっ、愉快です!」
そう言って彼はなみなみに入った精霊酒を一息に飲み干す。
「きゅう」
目を回し、後ろへばたーん、と倒れた。
「リ、リヒトぉー!?」
だからやめとけって言ったのに……。
‐‐‐‐‐
朝日が差し込む。
もう朝かー。
よいせ、と起き上がる。
結局機能はダウンした竜双子をマキアとパニーが部屋まで運んでくれ、私も疲れたので帰って寝たのだ。
さて……二人はどうなってるやら。
寝間着を着替えて食堂へ行く。
「おぉ、殿! おはようございますぞ!」
「元気だなお前……」
今日も朝からテンション高めに芋を頬張るカイリュウのすぐ傍で、竜双子は朝食を脇にどけて机に突っ伏していた。
表情は伺えないが、顔色は蒼いことだろう。
「ううっ……主君、なんだか頭ががんがんします……」
だろうな。
「何か悪夢を見ていたような……あの、あまり記憶がないんですけど、あの勝負はどうなったんですか?」
「えっと……知らないかな……」
真実は教えないでおいてあげよう。
うんうん唸っている二人の向こうでは、パニーがぐーすか寝ていた。
朝だし起こしてみるかと近づくと、パニーが突然ガタッと立ち上がって私の服の襟を掴み上げる。
はい!? どういうこと? 私まだ何もしてないよ!?
「てめェ、チェゼフ! 毎朝毎朝るっせェんだよォ!」
「人違いです人違い!」
寝起きが悪いにもほどがある。
「はぁ?」
「パーノ」
半分瞼を閉じていたパニーは、マキアの声をきくなり手を離して固まった。
「あなたには何度言っても分からないようですね。であれば……」
「い、いやいや誤解すンなよォマキアちゃん! オレサマはちょっとソルナとじゃれてただけで」
「ティタニア、あなたに任せましょう」
パニーの必死の弁解に一切聞く耳をもたず、後ろにいたティタニアがパニーの前へ悠然と歩み出た。
「さあ。参りましょう、パニー」
「誤解だッつーの! チェゼフ! チェゼフ助けろォ!」
あーあ……。
と、食堂の扉からメイド服を着た女性が入って来て、スタスタとパニーのもとへ歩いてくる。
「よォチェゼフ! さすがだぜィ!」
この人が、毎朝うるさいとパニーに言われていた人か。
服装や仕草から察するに、パニーの召人かお世話係みたいな役職かな?
チェゼフさんは私の前へ来ると、きれいに礼をした。
「ヤクルの領主様。ジャシパーノに仕えております、中位精霊のチェゼフと申します。主人が大変失礼な振る舞いをしてしまい、申し訳ありません」
あ、やっぱパニーに仕えてるんだ。
どう返事するものか……あ、行っちゃった。
「よォ、褒めてやってもいいぜィ。チェゼ、フぅ!?」
チェゼフさんはクールな表情を崩さず、パニーの襟首を躊躇なく引っ掴んだ。
ん? パニーは主人じゃないの?
私が逆だったのを聞き間違えた?
「世話のかかる主人にうるさいなどと言われる筋合いはないはずですが……一体誰が何から何まで世話をしているとお思いなんです?」
うーん、パニーが主人ってことであってるみたいだけど、なんか違くない?
「痛ェ、何しやがるチェゼフ! オレサマが主人だろうがよォ!」
「シルフ様方や森の皆さまにご迷惑をおかけしていないかと森を訪ねたのですが、よもやそのように思われていたとは心外ですね。暴れないで下さい、手のかかる主人ですね全く……」
「放せこの! 放しやがれェ!」
「ティタニア、主人のお仕置きに手を貸していただけますか」
「ええ、いいわ」
そうして、パニーは情けなくも女性二人にずるずる引き摺られていった。
えっと、チェゼフは中位精霊で、パニーは上位精霊だったよね?
チェゼフさん、やるなぁ。オカンみを感じる。
「うふふ……お仕置きですか。いつ聞いても良い響きですね。是非ともご主人様のお声でききたいものです」
ちょっと理解できないわ。
朝から疲れるぜ……。
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