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〈報告 No.35〉
〇定期報告
・ステータスに大きな変動なし
・四大精霊と接触、友好関係にある様子
・精神が安定した、部屋の外に出る
・新しい個体が幹部に加わる
名:マキア(領主が命名)
種族:外見では判断できず
おそらく人族ではない
主戦法:物理攻撃、精霊魔法を行使する場面もあった
ランク:D+程度と推測
ステータスの推測ができないためB級注意人物
・上位精霊 ジャシパーノと接触
・上位精霊 トゥクイと接触
→いずれも友好的
〇領の様子
・住民数の増加
・道路等の整備が進む
〇No.34より ミシュルオグルの報告
・クラリエイルがマグリエイルと接触し、翌日の深夜に連行したもよう
・転移門への移動中、ミシュルオグルがスキル「一撃必殺」を用いてクラリエイルの翼の根を射る。クラリエイルの処分に成功
・精神状態の不安定になったマグリエイルをミシュルオグルの脅迫により拘束、転移門で天界に移動
・移動中、テレスオグルがスキル「火魔法」を用いてクラリエイルを焼却処分
・なお、その際マグリエイルが抵抗したため、ミシュルオグルのスキル「心理魔法・睡」で無力化
以上を報告する。
未月九日午前十一時四十一分
‐‐‐‐‐
「ソルナ嬢、今日の予定だが……アートイス国王、ルフェン領、ラオントス国王、精霊国セントリアの女王との話がメインだ。それと市場を見ておくのと、できればプマラ領へもう一度話をしにいくぞ」
「鬼め」
朝食を終えた途端、ミョウンさんからタイトすぎるスケジュールを伝えられた。
「ああ、今日は未月九日か。なら、翼人族と天狗族のボスのところにも行かねえとな」
「この鬼め」
嫌だ嫌だ、私だって夏休みエンジョイしたいのにー!
机に伏せて足をばたばたさせる。
「しかしソルナ嬢、これは領主としての責任だろ?」
うぐ。そう言われては反論できないじゃないか。
「領主なんて立場を持ち出すんなら、ミョウンさんこそ呼称を改めるべきじゃないのかな、ン? 今は一応、この領の商人筆頭になったわけでしょ」
そうらしいんだよね。ついこの間知ったことなんだけど。
「そういやあそうだな。姫と領主様、どっちで呼べばいい?」
「……ソルナ嬢で結構だ」
生意気宣ってすんません、敵わねえわ。冗談ですので。
しかしまあ、駄々こねてばかりもいられない。
えーと、アートイス国王だっけ?
って、キッドのお父さんか。
戦争の処理でお世話になった人だね。
で、ルフェン領はファレアのお父さんと話すのか。
ラオントス国王はあのオッサンだね。興味なさすぎて、戦争のあとのこととか知らんわ。
領主としてこういった情勢に疎いのはまずいのかなぁ。
その後はエーナ。
市場はいいとして、プマラ領は交易の相談だね。まずは私たちが売れるものをアピールして、印象を残すのが目的。
子供の治める領が成立している、という噂は、エーナの言う通り大陸中に広まっているらしい。
が、品が上質だとか、食べ物がおいしいとか、魔物が住んでいてだだっ広い森の中にあることなどは周辺の領や町の間で言われていることなのだとか。
それから、翼人族と天狗族は確か、うちで暮らしたいっていう種族だよね。
長老が前言ってた気がする。
しかし……こんなに回れるか?
国王三人いるし、ルフェン領主は二位領主、プマラ領主は三位領主。
気を抜かずに相手をしなきゃならない。
そこにさらに翼人族と天狗族が加わるとなると……。
「ミョウンさん、ちょっと予定減らせない?」
「みりゃわかるだろ。それとも、誰かひとり国王でもすっぽかすか?」
まあ、そうなるよね。
うーん、困った。
と、マキアが口を開く。
「では、翼人族と天狗族のボスとは僕が話してくるというのはいかがでしょうか。ご主人様」
え、いいの?
「いやでも、やっぱ私が行かないと失礼じゃ」
「いえ、それはあちら側がご主人様に頼むという形になるので、ご主人様がわざわざ向かわれる必要はないかと」
あ、たしかに。マキア一応防衛代表だし、使いの人として出していいかもしれない。
「えっと……じゃあマキア、頼める?」
「はい、喜んで!」
それ、居酒屋さんとかで聞くやつ。
表情見れば嬉しいのは丸わかりだけど。
「ご主人様への連絡は念話でよろしいでしょうか」
「念話ってそんな遠くまで繋がるもんなの?」
「遠くにいる相手に発信することはできませんが、あらかじめ念話を繋いでおけばある程度は」
そんな便利な機能、今の今まで知らなかったわ。
年の功というヤツですね。
それより念話念話。
もしもしマキア、聞こえる?
『はい。ご主人様の澄んだお声が響いて、夢心地です』
そ、そうかよかったな。
「さてソルナ嬢。マキア殿も出発したようだし、俺達も行くぞ」
あ、はい。
決定事項なんですね。
私の意思とはいづこへ?
「今回もドラゴンに乗せてもらうのか?」
「いや、馬車で行くよ」
前回は単純に速いからって理由で風流たちに乗せてもらったのだが、あとできくとやっぱり騒ぎになっていたそうで。
人里にドラゴンが出たってんで、上を下への大騒ぎになっていたらしい。
もっと早く言って欲しかった。
というわけで今回は、からくり技師(自称)のラギリに作ってもらった馬車で行きます。
米を開発してこのヤクル領に私がスカウトしたラギリは、正直影は薄いけど、こういった機械系の分野で活躍しているのである。影は薄いけど。
ああ、影が薄いと言えば、モブラートさんとテレスさん元気かな?
モブラートさんは地味に成績がいいのに、地味に要領が悪いのかさぼり癖があるのか、そこそこな順位から動けずにいるんだよね。
テレスさんは、ええと、花合戦で生徒会役員に指名された男子だったよね。
本名はテレス・オグラー……だっけ?
生徒会役員で副会長っていう役職のわりに、失礼だけどすごく影薄いんだよねー。
まあそれはおいといて。
出発しましょう、出発。
さっさと行って、ちゃっと帰ろう。
「あぁ、ちょっと待ったソルナ嬢」
「ん?」
ミョウンさんに呼び止められる。
「服はいつも着ているものではなく、何か別の服がないか?」
「別の?」
普通の服じゃいけないのかな。
ハテナが顔に出ていたらしく、ミョウンさんが説明してくれる。
「一応、領主の仕事で人に会うからな。普段の服は普段着るぶんにはかまわんが、仮にも国王や身分の高い相手に会いに行くんだ。きちんとした格好で行かねえとな」
「なるほど」
でも、きちんとした服装か。
思い浮かんだのはスーツだけど、私の場合はドレスか。
……持ってねえな。
実家から持ってきたのは、身長がのびて、とっくにサイズアウトしちゃったし。
「その顔は、持ってねえって顔か」
「あたり」
私が親指を立てると、ミョウンさんはため息を吐いた。
「少なくとも二着くらいはあると思ってたんだが……」
「あったけど小さくなったんだよ」
「そういう場合には新調するんだろ」
あ、そっか。
服を作るのが得意なエンジュにでも頼んどくべきだったな。
「今が七時前か。アートイス国王との約束がくじだから、今からミルバで探すのは厳しいな」
「スミマセン……」
うーん、困ったね。どうしよう。
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