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「女神様ぁ、何か困りごとぉ?」
「僕らが相談に乗るンダナ!」
あ、カメ乃とカメ吉。
「いやぁ、仕事で人に会う時の服がなくて……」
「あっ、女神様、おしゃれをしてくれる気になったのぉ?」
カメ乃ががっしと私の手を掴んだ。
実は前々からカメ乃は、私に似合う服があるからとエンジュの店に私を連れていきたがっていたのだが、お洒落する意欲の著しく低い私は誘いを断ったのである。
「おしゃれっていうか、正装っていうか……」
「任せて、女神様ぁ! いーっぱいあるよぉ、女神様に着てもらいたいお洋服! お仕事ならあれかなぁ……いや、あっちの方がいいかも……」
こっちこっち、と私の手を引いてカメ乃が歩き出す。
うわお、さすが魔物。見た目より力が強い。
食堂を出て町へ。
「ま、待ってナンダナ、僕の足短いから歩幅が全然違……あー! カメ乃、待ってナンダナ!?」
ぽってぽって必死についてくるカメ乃の声をガンスルーし、カメ乃はぐいぐい歩く。
「こんにちはぁ! エンジュさぁん、カメ乃だよぉ」
「あら、おはようございま……ひ、姫!?」
服が並んだお店の奥からエンジュが慌ててやってくる。
品数が増えて店内も整えられ、以前よりしっかりした店になってるな。
「おはようエンジュ。ごめんね、朝早くに」
「とんでもない! わざわざ店に足を運んでいただき、ありがとうございます」
「ええっと、これじゃなくてこれでもなくて……あっ、これ! 女神様ぁ、これとかどうかなぁ?」
カメ乃が一着の服を掲げた。
やわらかい生地、ふわりと広がった裾のドレス。
ウルヴァ姉様とエーデル姉様の着せ替え人形である私の感想としては、十分正装と言って通じる立派なドレスだ。かといって華美すぎるわけでもない。
個人的にはあんまりヒラヒラと派手なドレスは好みじゃないので、素直にとってもかわいいと思う。
「姫、このドレスはカメ乃さんのデザインをもとに私がつくったものなのです。カメ乃さんのデザインは、女性冒険者にも好評なんですよ」
へえー!
服のデザインかぁ、私にはまるきり縁のなかった分野だ。
「ほう。これならいいんじゃないか」
ミョウンさんが頷いて言った。
いつのまに背後に!? おそろしや。
「それじゃあソルナ嬢、大急ぎで着替えてくれ」
「お眼鏡にかなってうれしいなぁ! はい女神様、カメ乃からプレゼントだよぉ」
「ありがとうカメ乃、助かったよ」
ありがたくドレスを受け取って手を振り、店を出る。
「姫、ありがとうございました」
「ありがとうございましたぁ」
二人は一緒に頭を下げた。
‐‐‐‐‐
「『雀蜂三段』!」
クリフィーゼの三連続の突きがノッカジカ――刃物のような切れ味鋭い角をもった鹿のような魔物に命中し、最後の一頭が倒れた。
「よ、よかったぁあ……さっすがクリフくんだよ!」
「少し大きい群れだったから、危うかったな」
クリフィーゼは剣の血を払って鞘におさめる。
「しかしこの森はどうなってんだ? 強い魔物がそこら中にゴロゴロしてるしよ。おかげでそこのビビりが始終ガタガタ震えてやがる」
構えていた弓を下ろし、ロロアはジュゼーに視線を向けて舌打ちした。
当のジュゼーは自分のことだと気づかずしばらくきょとんとしていたが、四人の視線が集まり、「え、僕!?」と自分を指さす。
「だだだってロロアちゃん、ここ強い魔物いっぱいいるんだよ!? いつ魔物が出てきて襲われるか分からないんだよ!」
「そのくらいでビビってんのかよ。情けねえ……骨は拾ってやるか」
ロロアの言葉にジュゼーがひいい、と蹲る。
「まままま待って、魔物の襲われてぼ、僕の骨だけ残るって……ど、どういう状況? どういう……」
「そうだな。皮をひん剥かれて目ん玉にしゃぶりつかれて、心臓は食い荒らされ肉は……」
「嫌ァアアァア!?」
やけにリアルなバルドの解説に、ジュゼーはボロボロ泣きながらライヒムに縋りついた。
「またですか……いい加減にしてください。いつまでそうして私たちに頼っているつもりなんですか」
「だって、だだだってだってだって! バルドくんがバルドくんが!」
纏わりつくジュゼーを見てため息を吐き、クリフィーゼもやれやれと首を振った。
「さあ、進もうか」
「ストップ、クリフくん! 僕ムリ! 怖すぎるよぉ無理!」
弱音を吐くジュゼー。四人はまたか、と呆れる。
何かある度にこうなっているので、もううんざりしているのは表情から明らかだった。
「皮を剥かれ目ん玉舐められて内臓食われて、最終的に骨になっちゃうよぉおお!」
「俺が盾として守るって言ってるだろ」
「でもバルドくんがクリフくんのところに行ってる間に襲われたら!? 僕もう、もう、ジ・エンドだよ!」
頭を抱えてガタガタ震えるジュゼー。
「僕弱いんだから無理!足がくがくなるから動けないしぃい」
「……そういえばライヒム。長い時間歩いているが、疲れてはいないか?」
クリフィーゼがふとライヒムを見た。
いえ大丈夫です、と言いかけ、クリフィーゼの無言の訴えに気づき変える。
「そうですね。少し疲れてきました」
「そうか。それは困ったな」
バルドがちらりとクリフィーゼと視線を交わしそう言った。
それを察したロロアも腕を組んで考え込む。
「もう少し歩けないか?」
「申し訳ありませんクリフィーゼ様、もう限界です……」
「……ラムちゃん疲れたの?」
視線をあげてジュゼーがライヒムを見た。
何か期待しているのか、前のめりである。
「ええ」
「ホント!? じゃあじゃあじゃあ、任せて! 僕に任せて! 僕がラムちゃんおんぶしてあげる、ね、ね、任せて!」
途端に元気になり、立ち上がって挙手するジュゼー。
「いいの?」
「うんもちろん! どんな魔物が出てきても僕が守ってあげるからね、ラムちゃん!」
さっきまでの怯えはどこへやら、喜色満面でライヒムをおぶって先頭を意気揚々と歩き出した。
「クリフくんもバルドくんもロロアちゃんも、はやくはやく! 置いてっちゃうよ~」
「……全く、調子のいい野郎だぜ」
ぼそっと呟いたロロアにクリフィーゼとバルドはそうだな、と笑って返す。
「おいコラ、待てニワトリ野郎!」
「僕も行くよ」
三人は、ジュゼーとライヒムを追いかけた。
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