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「それでねそれでね、ツァナちゃんとラテちゃんがシスターの財布を掠め取ったんだ!」
ライヒムをおぶったジュゼーが上機嫌でライヒムに話している。
「なんでも友達にプレゼント買うんだって。いやぁ、久々に会ったけど、二人ともたくましくなったなぁって……」
「静かに」
と、クリフィーゼがジュゼーの言葉を遮ってロロアに視線で合図をした。
敵がいることをその様子から察したジュゼーの表情が、一気に恐怖で曇る。
「え、な、何!? 今度は何!? どどどどうしよう、どうしようクリフく、むぐ」
「気づかれます」
ライヒムに後ろから口を塞がれ大人しくなったジュゼー。
バルドが前に出、ロロアは木に登って弓に矢をつがえた。
がさ、と木の葉が擦れる。
その隙間から敵の姿が見えた。
「ゴブリンが五・六体か。ロロア、体の大きな個体を頼む」
「おう、任せろってんだ」
小さな声でクリフィーゼが指示する。
ほどなくして、ゴブリンの悲鳴が聞こえた。
「クリフィーゼ、仕留めたぜ!」
「よし、攻めるぞ!」
ライヒムがジュゼーからおり、ゴブリンに斬りかかったクリフィーゼを援護するべく追った。
「うそぉ! ま、まま待ってラムちゃん!」
慌てて飛び出したジュゼーに、一体のゴブリンが襲い掛かった。
粗末な木の棒を構えてがむしゃらに振り回すゴブリン。
「ひぃいい! こ、こっち来ないで来ないで!? 来るな来るな来るなぁあ!」
逃げようと反対を向くが木の根に引っかかってこける。
「グガァアア!」
「ぎゃあぁあもう無理無理ー!」
無意識に剣を抜いて、ゴブリンの顔面に投げつけた。
すると運よく首に突き刺さり、ゴブリンが息絶える。
倒れるさまを訳も分からず見ていると、やっと状況が呑み込めた。
「え……あれ……僕、素の状態で魔物倒せた……? や、やったぁあ! ねえ見てた? みんな見てた⁉ 僕一人で倒せたよぉ!」
「ゴブリンくらいの雑魚モンスター狩って……バカじゃねえの?」
「え……で、でも……」
ロロアにばさっと切られ、涙を滲ませる。
「いや、ジュゼーはよくやったよ。ずっと狂戦士化の状態でしかまともに戦えなかったんだから、大きな進歩だ」
「クリフくん、それ貶してない?」
称賛したつもりだったようだが、届かなかったようである。
と、ライヒムが口を開いた。
「私はかっこいいと思いましたよ、ジュゼー」
「え……ほ、本当……?」
いじけていたのが嘘のように立ち上がってライヒムに詰め寄る。
「本当に!? ラムちゃんウソじゃない!?」
「ええ」
ライヒムの言葉は効果覿面で、ジュゼーはとびはねて小躍りした。
ロロアが冷ややかな目で見ていたのには気づいていないようであるが。
「やったっ、ラムちゃんに褒められた~! んふふふー」
「……もっとも、魔物を前に常にびくびくして悲鳴あげてる腰抜けに比べればの話ですが」
「……あ……う、うん」
取り戻した元気を一瞬にして削がれ、ふとライヒムの腕に目を向ける。
布地がぱっくりと裂け、血がにじんでいた。
「ラムちゃん、怪我してるよ!?」
「この程度なんでもないわ」
「ダメだよ、ちゃんと手当てしとかないと悪化しちゃうから」
ライヒムの袖をまくり上げ、水で軽く傷口を洗う。そして懐から布を取り出し、傷口を覆うように巻いた。
「よしっ、できた!」
「ありがとう。ジュゼー」
礼を言ったライヒムに、ロロアが意地悪く笑う。
「ライヒムに触りたいがために覚えた技術にしては、よくできてんじゃねえか」
「ちょっ、ロロアちゃん! そんな邪な気持ちで僕が、あ、いや事実だけど! 僕の品位が下がるようなこと言わないでよ!」
「……そうだったんですね」
感謝されたと思えば冷たいまなざしを向けられ、上げては落とすの二連攻撃にジュゼーはショックを露わにした。
「ロロアちゃんひどいよぉお」
「……しかし、報告のとおりゴブリンが多いな」
ジュゼーに嘆きをスルーし、バルドがそう言ってクリフィーゼを見る。
そのことはほかの四人も気になっていたらしく、先ほどまでの空気は消えて皆真剣な表情になった。
そもそもゴブリンは、知能が低いため種族内の社会というものが成り立たず。家族などの少数の群れで行動する魔物だ。
もちろんほかの魔物にすぐ食べられるが、数が多いので種が滅びることはない。
それが、ここ一週間で五人はおそらく二百をこえるゴブリンを討伐していた。
ゴブリンという魔物の特性からして、間違いなく異様だ。
「考えられるのは、何かしらゴブリンの餌となるものがここに大量発生している……などでしょうか」
「でも、ゴブリンって基本なんでも食べるよね? 特定の餌に引き寄せられてっていうのはないんじゃないかな」
ゴブリンは弱い種族であるためか、キノコや魔物の肉、野菜や果物など、何でも食べる雑食性だ。
それに、五人が今まで見てきて、ゴブリン以外に大きな異変はなかった。
食物連鎖を考えると、少なくとも餌となるものがゴブリンの数より多いはずである。それならばもっと目立つはずだが、それがないということは餌の大量発生は考えにくかった。
「じゃあ、リーダーみてぇな魔物でも現れたとかじゃねえの?」
「いや、ゴブリンが何かに従うほどの知能を持っていると思うか?」
バルドに反論され、また考え出すロロア。
「……それに、北東に進むにつれ数が増えているような気がします」
「確かにそうだな」
クリフィーゼたちは、魔物の平均ランクは他の場所よりかなり高いこの森の中心部は危険と考え、北東へ進み南東へ下ることで中心部を避けて森を出ようとしている。
というのも、森では奥へ行くほど強力な魔物が生息しているからだ。
五人が進むにつれ、ゴブリンの数はどんどん増えてきている。
「……ま、とりあえず進んでみようぜ。この先にゴブリンどもの本拠地があるなら叩けばいいし、そこに行って調べりゃ、何かわかるだろ」
ロロアの案に頷き、五人は再び歩き出した。
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