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僕は耳を疑いつつも、高揚して制御できない言葉たちをぽろぽろと口からこぼしていった。
「わざわざこんな日に、家族を裏切って浮気する奴がいるんですね」
「………」
「奥さん、あんなに綺麗でしっかりした人なのに……」
「………」
「でも、どうしていきなり探偵事務所に頼んだんでしょうね。まずは本人を問い質すのが先なんじゃ…」
「怖かったんだよ。きっと」
「………」
結城さんの鋭いジャブみたいな相づちで、漸く僕は口を噤んだ。
「信じていた人から、いきなり本当のこと言われるのが」
「………」
「もちろん、嘘をつかれるのも」
「……心の準備、みたいなことですか」
僕はなんとか言葉を発した。
「……そうだね。少し時間をかけて、客観的事実として受け止める方がダメージは少ないよね。だからこうゆう仕事があるんだよ」
そう話した後、結城さんは再び口を閉ざした。朝方は快晴だった空は、昼過ぎから少しずつ薄い雲を増やし始めた。
結城さんにも以前、そんな悲しい経験があったのだろうか。
相変わらず寂し気なその眼差しを、僕は時々気づかれないように窺った。
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