HARIKOMI Bitter&Sweet

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 奇遇なことに今日は2月14日。バレンタインデーという特別な日でもあった。  もちろん浮かれ過ぎの僕でも、結城さんからチョコレートを貰えるなどとは1ミリも思っていない。公園にやって来る途中、僕はコンビニでハート型のチョコを二種類(ビターとスイート )買い、リュックのポケットに忍ばせていた。何か会話のきっかけにでもなればいいな、くらいの気分で。最近は男の人からあげたりすることもあるらしいから。 「おはよう…」  いつの間にか、結城さんが隣に座っていた。気配を完全に消して対象に近づく。これぞ、プロの技だ。 「お、おはようございますっ!」  僕はすっとんきょうな声で挨拶した。結城さんは透かさずシィと人差し指を唇にあて、切れ長の目で僕を見た。オーバーサイズのロングコートにロングスカート。モノトーンで纏められたコーデは、華やかではないけれど、透明感のある白い肌を一層際立たせていた。  結城さんは黙々と一眼レフカメラの設定を確認し、公園内のあちらこちらにレンズを向けた。一気に話しづらくなった僕は、結城さんを真似るように自分のカメラの設定を確認した。  そう、僕らには今日、平日朝から公園をぶらつく、美大写真科の学生カップルという裏設定があった。  準備を終えた結城さんは、ベンチを離れ、マル対のマンションのエントランス周辺が見通せる場所へ移動していった。僕も慌てて着いていく。ちょうど木々やフェンスに隠れてこちらが見えにくいベストポジションと思われた。  午前11時。公園デートどころか、僕は結城さんと一言も話せず、無言のまま時間が過ぎていく。今のところ、愛人がやって来る気配はない。  グルルルルルル……    不意に、微かな異音が耳をくすぐった。
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