そのときのために

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 救急搬送された妻の病名は脳出血だった。医者の説明によると、左脳の血管が破裂して出血しており、右半身に麻痺の症状が出ているという。手術の必要はないが、右半身に後遺症が残る可能性が高いと告げられた。リハビリの期間も考慮すると、退院までに最低3ヶ月ほどかかることは覚悟しておいて欲しいとのことだった。  妻は今年で61歳になったが、これまでに大きな病気にかかったこともなく、毎日元気に過ごしてきた。足が弱るといけないからと、55歳の誕生日を迎えた頃からは、毎朝ウォーキングにも励むようになっていたし、ここ3年ぐらいは自治会で行われる太極拳にも毎週欠かさず参加していた。  食生活もほどほどに気を使っているという感じで、太り過ぎず痩せ過ぎず、ちょうどいい体型を保ってもいた。  本人は「そんなことないわよ、シワもシミも増えたし、白髪だってね」などと素直に頷きはしなかったが、夫の目から見ても、年のわりにはずいぶんと若く見えていたのは間違いない。  年も3つ上で、たいした運動もせず、毎日の晩酌を欠かさない私と違って、健康的な生活を送っていたはずなのに、そんな妻がどうしてこんなことに……。
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