そのときのために

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 まずは、味噌汁ぐらいはできるようにならないと――  小さくてもまずはその一歩を踏み出さないと、少しも前には進めないのだ。こうしてようやく重い腰をあげることができたのは、さらに1週間後のことだった。私は自分を奮い立たせて、鍋に水を張った。  冷蔵庫をあける。  豆腐はあるが……、賞味期限がとっくに過ぎている。  野菜室をあける。  葉物があったが、どれもしおれていて使えそうにない。  念のため、冷凍室もあけてみる。 「あっ……」  新玉ねぎがカットされた状態でポリ袋に入っていた。 「玉ねぎときたら、相手はあれか――」  炊飯器やポットが置いてあるラックの、いちばん下の段に視線を移す。ぬか床の隣にある籐カゴにあたりをつけた。  引っぱりだすと、確かにそこにそれはあった。  しかも、ふたつ。  が、惜しいことに、余分なものが……。 「これって、確か毒があるんだったか――」  いくつもの緑色の芽を吹いたじゃがいもをつまみあげる。  捨てるのも忍びないが、ここまで長い芽を生やしているとなると、食べるのにも抵抗があった。 「あ、そうか――」  私は、妻が以前そうしていたように、じゃがいもに包丁を入れて半分にしていた。
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