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時は遡ること、今より二千余年程昔、所は中国大陸──。
農民達は、飢えと疫病に侵され、生きることも、ままならなかった。
そこへ、張角という男が現れ、黄帝老子の教えと称する太平道という考えを広め始めた。
それは、困窮した農民の心を掴み、ついには、全土で反乱が起こった。
後に、黄巾の乱と呼ばれるものである──。
さらに、その混乱に乗じ、董卓が政権を奪取する。
その国土混乱を平定する為に、各地から連合軍が召集されて──。
「そして、今の私どもの知る世になった訳ですが、旦那様に、わざわざ、お話する事でもなかったですわよね」
と、憎まれ口を叩く月英は、手渡された地図を眺めている孔明の双眸に引き付けられていた。
(ご自分だって、睫毛が長いのに。そんな、伏し目がちにされたら、
つい、見惚れて、ドキドキしてしまうではないですか。なんて、子憎たらしい人でしょう。)
顔の火照りを感じた月英は、孔明に悟られまいと、こほん、と、咳払いをした。
「あ、黄夫人、お疲れになったのでしょう。お風邪をおめしになっては、いけません。童子に、言い付けて、薬湯を用意させましょう。風邪は、万病の元と言いますからね。気をつけなければ」
「もう!ですからね、ここ、ここだけが、風通しがよすぎるのですよ!」
孔明の持つ地図を奪い、月英は、再度、卓に広げると、一点を指差した。
「ええ、ええ、国土は、男達の野望ギラギラで、蒸し蒸しです!特に、国土平定に功績のあった、曹操、孫堅の両名様ときたら!」
「……きたら?」
「はい、曹操様は、帝を擁して大将軍の地位につき、中原の支配を確実なものとしております。そして、孫堅様も親子で呉郡一体を平定して……」
「つまり、私達の住む荊州だけが……」
「そうです、すっかすか」
「風通しが、良すぎる訳ですね。それは、困った。風邪をこじらせ、大病を患ってしまいかねない……」
孔明は、広げられている地図の、自らの居である荊州の辺りを凝視した。
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