軍師の嫁取り 2 ~戦の前には女あり~

3/5
前へ
/5ページ
次へ
義理姉上(あねうえ)様」 「ああ、別に、私は、気にかけておりませんよ?そのうち、旦那様も、食されることでしょう。さあさあ、(きん)様、冷めないうちに、食べましょう」 言って、月英は、箸を進めた。 同居している、弟の諸葛均(しょかつきん)は、これまた、兄の上を行く嫁がやって来たと、呆れつつも、少しばかり、頼もしく感じていた。 兄、孔明は、食事も摂らず、じっと地図らしきものを見て、考え込んでいる。 昼間、月英が、何かを教授していたようだが、それと、兄の行いは関係あるのだろうかと、均は、思う。 「あの、義姉上様?昼間、兄と話しこまれていたようですが……そのぉ、やはり、私は、ここから出て行った方が良いのでは。さすれば、もっと、気兼ねなく、二人で長話もできるというもので……」 「あらまあっ」 月英は、青菜の鹹菹(しおづけ)を口に運びながら、均へ、言う。 「ならば、いつも、私一人で、夕食を摂ることになりますわ。旦那様は、何かあれば、ああですもの」 と、孔明に、ちらりと目をやる。 「あー、ですが、やはり」 「新婚、だから、ですか?」 「はあ、まあ、そうです」 この義姉(あね)には、かなわない。下手な誤魔化しなど、通用しない、と、均は思いつつも、その食べっぷりに、目を見張った。 「うーん、まさか、青菜が、このように、美味しい物とは。均様が、いなければ、採れたての新鮮野菜は、用意できませんし」 ふふふと、月英は笑った。 「はあ、お役に立てているのならば」 「晴耕雨読」の生活を送っている孔明兄弟であったが、実の所、孔明は、「晴読雨読」に徹して、耕し仕事は、均の日課だった。 と、その孔明が、立ち上がった。 「明日、襄陽(じょうよう)の街まで、出かけて来ます。朝早く出ますので、私は、もう、休みます」 言って、寝所へ向かおうとした。 「旦那様。それならば、腹ごしらえをしておかなければ」  ねっ?と、どこか、甘えるような素振りで、月英は、孔明へ夕食を勧めた。 あっ、と、孔明、均、兄弟は、小さくつぶやき、頬を赤らめる。 「で、では、お言葉に甘えて……」 「あ、私は、裏方で、童子と共に……」 孔明も均も、しどろもどろになった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加