22人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、一番鶏が鳴く頃出立した孔明は、夜になっても帰って来なかった。
「義姉上!そんな、呑気に、茶を飲んでいる場合ですか!」
均は、慌てている。
夜更かしをする事があっても、兄、孔明が帰って来ない事などなかったからだ。
「まあ、帰って来ないのだから、仕方ないではありませんか」
「あー私も共をすれば。兄は、あまり街へ、出た事がないのです。道に迷ってしまったのかも」
「全く、子供じゃあるまいし、そもそも、戦場へ、出陣すれば、迷うどころか」
均は、耳を疑った。この地で、戦など始まっていない。そして、今の所、どの土地も、平定している。いったい……。
月英は、童子に、揚げ菓子を持って来させ、呑気に、食していた。
「帰って来たくなれば、戻ってこられますよ」
「で、ですが!仮にも、襄陽の街ですよ!兄には、色々と、刺激の強い誘惑が!い、いや、誰ぞに、騙されて、何かに、まき込まれているという事もありえます!」
「まあ、そうだとして、あの方が、黙って引き下がりましょうや?」
それもそうだ、と、均は、思う。あの兄の事、きっと、理詰めで、相手をやり込めるに違いない。
そして……。ふと、思う。
「義姉上、何故、先程、戦場などと?」
「そろそろ、ではないかしら?いつまでも、田舎長官よろしくの者しかいない、のも、不都合じゃなくって?」
あっと、均は、声を揚げ、色めいた。
「では、兄は、仕官に!」
「仕官に、か、どうかは、分かりませんが、少なくとも、思う所は、あったのでしょう。ですから、その準備に入ったのでは、ないかしら?」
月英の言葉に、均の胸は、高鳴った。鼓動が、ドキドキと鳴っている。
ついに、動き出した。兄の、才能が、認められる日が来るのだ。
このまま、片田舎で、埋もれてしまう運命なのか、自分では、兄の力になれないのかと、嘆いていた日々は、終わりを告げる。この、義姉ならば、兄の名を世に轟かせてくれる。
「まあ、均様、お座りなさいな。私達が、どうこう考えても仕方ないこと。なるようにしかなりません。と、いうよりも、あくまでも、孔明様の人生です。私達が、口をはさむ事では、ありません。が、少しばかり、背は押さないと、あの方は……いけないようですけどね」
きっと月英の思惑通りなのだろう。えらくご機嫌な素振りで、均へ菓子を勧めているのだから。
最初のコメントを投稿しよう!