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そして、一夜明け、孔明は戻って来た。それも、子供のようにかけ足で、家へ飛び込んで来たのだった。
「ああ!遅くなりました!聞いてください!黄夫人!」
ハアハアと、息を切らせ、それでも、喋ろうとする孔明に、
「まあ、まずは、水の一杯でも、お飲みなさいませ。それでは、喋れないでしょ?」
うん、確かに、と、孔明は、裏方──、水瓶のある調理場へ向かった。
そして、孔明は、月英と均へ、起こった事を語ったのだ。
「素晴らしい師に、出会えたのです。昨日は、すっかり、話し込んでしまって……。明日より、先生の所へ、通う事にしました」
「まあ、それはそれは。では、馬の用意をしなければなりませんね。毎日、かけっこでは、旦那様も、大変でしょ?」
「ああ、確かに、胸が、ドキドキ、痛い」
ふふふと、月英は、笑った。
「さて、その、胸の高鳴りは、走った、からでしょうか?」
「ん?」
孔明は、首を捻るが、直ぐに、はっとして、それは──、
「……司馬徽先生に、出会え、門下生になれたからでしょうか?」
と、月英へ確かめる。
「なんと!」
均は、驚いた。
その先生とやらは、今でこそ隠士として、暮らしているが、数々の門下生を持ち、その才能を引き出す名師で、皇太子の教育係である、太子少傅の職についていたという噂がある人物だった。
均も、師の事は、耳にしていたが、孔明はというと、特に、誰の
元に付くわけでもなく、かといって、誰かを導く訳でもなく、一人、淡々と、書物を紐解くという日々を送っていた。
それが──。
「この地の為に、仕官を思い立ちましたが、まずは、先生の門下生となって、必要な事を学ばなければ……」
孔明の告白に、一瞬、月英が、ニヤリと笑ったのを、均は、見逃さなかった。
もしや、義姉が、仕組んだ事ではあるまいか。
あぁ!そういえば!義姉の父は、襄陽の名士。
孔明と司馬徽を引き合わせるくらい、朝飯前。もっとも、互いに、癖が、ある。それも、この娘にして、あの父のこと、どうにでも手配することだろう……。
ああ、なんだか、私まで、ドキドキしますわ!などと、調子を合わせている義姉の姿に、均は、思わず、吹き出すのだった。
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