17人が本棚に入れています
本棚に追加
争いが過ぎ去り、まだ何が起こったのかもわからず、混乱する頭。
声が行き交い、バタバタと情報が共有された。
その間にもトアは慌ただしくリビングに戻される。
頭の中で繰り返されるのは、今まで存在するとすら思っていなかった数々の不思議な現象と異変。
黒い男の腕や、薄気味悪い無表情な顔。
双子の人間離れした動き。
そしてカナトが持っていた魔力。
この家に来てすぐの頃、水の入ったグラスが砕けたことも。体についた水滴が飛び散ったことも。
全ての理由が今明らかになった。
恐怖以上の何が頭の中を覆ってしまったかのようにぼーっと頭には靄がかかっている。
立ち尽くしていると、誰かの手が肩に触れた。
「っ…!」
先ほどの体験が目に焼き付き離れないせいで、ものすごい勢いで振り返る。
「…と、トア…?」
振り返れば、リオが驚いて後ずさっていた。
傷ついたような表情を隠すように、慌てて視線を逸らすリオ。
「ご、ごめんなさい…さっきのことがあって、つい…!」
慌ててトアが謝ると、リオは優しく首をふり、
そっと床に膝をつき、トアを見上げた。
「…無理ないよな…。ごめん。これで、怖くないか…?」
「リオくん…」
困ったように眉を下げて微笑み、トアを見上げる紅の瞳。怖がらせないだろうかと伺うように、悲しそうな笑顔を浮かべている。
突然、きゅんと心臓のあたりが苦しくなり、失われていた感情が急速に息を吹き返し始めた。
途端に、目頭に熱を感じる。
緊張しすぎて凍り付いていた感情が動き出し、恐怖や安心感が一度に戻ってきてしまった。
生理的に潤んでしまう目を隠し、トアはなんとか感情を飲み込むと、笑顔で答えた。
「リオ君は怖くないんです…助けていただいて、ありがとうございました…。」
お礼を言うとリオは、小さく笑って恥ずかしそうにつづけた。
「まぁ、助けたのはカナタとカナトなんだけどな。」
「リオ君がいなかったら、私…。」
「い、いや…別に…俺は、ただ…トアが…。」
再び訪れそうになる沈黙に、心臓の鼓動が徐々に不規則になって行くように感じてしまう。
焦り、戸惑い、慌てて続ける。
「か、カナタ君とカナト君、強いんですね…」
「そ、そうなんだ…俺でも二人相手に喧嘩したら勝てねぇよ」
ははと乾いた声で笑いリオは一瞬、考え事をするように押し黙った。
そして口を開き、少し神妙な面持ちで訊いた。
「カナトのあれ、びっくりした…?」
「あ、はい…。あんな魔法みたいなことができるんですね。」
思ったままを口にするとリオは目を一瞬細め、驚いた表情を見せた。
「魔法、な…。その、…怖…かったか…?」
「あ、え、いいえ…なんていうか、うまく言えないんですけど、カナト君の力は別に…」
「…本当に、怖くなかったの?」
リオは恐る恐る探るように付け足した。
「はい。上手く言えないんですけど…でも恐怖だとかそんな気持ちにはならなかったんです。体に感じた時も…何故か、優しくて」
「そ、そっか…よかった。じ、実はさ…。」
そこまで言いかけたとき、遥希の大声が聞こえた。
「えっ、なにこの庭!めっちゃ壊されてんじゃん!うぇ!?どしたの!?」
どたばたと足音を響かせ、遥希がリビングに顔をのぞかせた。
手には兎を抱いている。どうやら、お世話をしていたようだ。
「…。遥希…おせーよ…。」
はぁ、と大きく肩を落としリオがやれやれと首を振った。
「説明はあと。トアを部屋まで送ってくるから、待ってて」
「ほーい。」
最初のコメントを投稿しよう!