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広く長い廊下を、リオについてゆっくりと進む。
「あの男の人…」
「あぁ…」
ずっと気になっていたことを口にする。
人間じゃ、ないですよね、と。
「…。そうだな、」
「…一体何だったんでしょう…」
「…気に、しなくていいよ。」
リオが明らかに言葉に詰まったのがわかった。
二人は無言のまま、廊下を進み続け、ついに部屋の前に到着した。
「リオ君、わたし…みなさんのことが心配で」
「トアは心配しなくていい!俺たちのことは、俺たちがなんとかするから。」
はっきりと、言葉を遮られた。
あまりの突き放し方に扉の前でリオに向き直ると、リオは顔を背けて視線を外した。
涼しげに澄ました視線を見ればいつも通りのリオだったが、唇が少しだけ悔しそうに引き結ばれている。
「リオ君…?」
「あっ、…いや、大丈夫。ごめん。ゆっくり休めよ。」
声をかければリオは笑顔を顔に張り付け、部屋のドアにもたれかかりぽんぽんと頭を撫でて余裕を見せる。
いつだってそうだ。リオは大丈夫、とだけ言って、本当の心を見せない。
脳内に、出会ってからのリオがフラッシュバックする。
強く、優しくて。
かと思えば笑顔は歪み、翻弄し、消えてしまう。
寝惚け目に大絶叫し、取り乱した純粋さ。
降ってくる痛みに向かって背を向け、表情一つ変えずにトアを守った姿。
慣れたような手つきで手を握り、髪を撫でる指先。春風のように軽く愛を囁く唇。
どれが本当のリオかわからない。
ひたすらに自分の心を隠して、それでも笑顔を向けて。その笑顔に近づこうと歩みを進めると、彼は決まって距離を取る。振り回される。乱される。思い返せばもう何度も彼に助けられた。怖いと思った時、もうダメだと思った時、何故かいつも傍に居てくれた。
−リオ君の本当の心に触れてみたい…。
そこまで考えが巡り、何を考えてるんだと自分に言い聞かせた。
「…どした?」
「…。あ、ありがとうございます!では私はこれで!」
「……っ…」
リオとトアの視線が一瞬だけ絡まった。
胸が苦しくて、言葉が出ない。
リオは目を見開いて、酷くショックを受けた顔で固まっていた。
こみ上げる涙を、赤くなった頬を隠すように、慌ててリオに背を向け、トアは扉のノブに手をかけるー
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