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第18話 天使と悪魔のダブルデート
「…あのさ…、トアに買い出し行かせるの、しばらくやめない?」
朝食を食べ終わり各自がリビングでくつろいでいる時だった。
リオがいつものお気に入りのコーヒーを淹れながら、ぽつりと提案した。
対面キッチンに立っていたトアの手が止まる。
「えっ!?なんで!?ついに監禁したくなったの!?」
間髪入れずにカナトが目を輝かせて立ち上がった。
手には遥希が飼っている兎を一匹抱いている。
あの事件以来トアとリオは不自然なほどに、いたっていつも通り、同じ屋敷の中で生活を続けている。
唯一、目だけはなかなか合わせない日々が続いていた。
「カナト…兄として心配だから教えて。どうして嬉しそうなんだ?」
「えー?決まってるじゃない!僕の愛情表現とタイプが似てるなぁって!」
「(愛情表現!!!!!!!!!)」
リオがせっかく口に含んだコーヒーを霧にしてしまった。
「っ…似てねぇ!!」
トア以外の全員の不信感満載の視線を浴びて少し赤くなりワナワナ震えているリオ。
その横で遥希がニコニコしながらせっせと床を拭いている。
「ふつーに、こないだの件があったからだろ。」
カナトの隣に腰かけ、もう一匹の兎の頬をつついて遊んでいたカナタが冷静な声で答えた。
「そう、そうだよ…。あいつも逃げたままだし…」
「そうですねぇ。」
すぐさま遠夜が賛成した。
「えーっ、俺はトアともっと出かけたい!そもそもどこの誰だかわかんないあいつ捕まえられるの?いつまで!?」
すかさず遥希が立ち上がり食ってかかった。
「そんなの、すぐにトアがおばあちゃんになっちゃうよ!っていうかトアが警察に届け出ないのは街に行ける自由があるからでしょ?ね?」
「遥希…どうどう…」
それを何とかリオが抑えている。
遥希の言い分も確かに半分合っていて、半分間違っている。
「お、おば…。」
「…。だ、だったら、せめてこれからは3人で行くとか…」
「3人!?」
また目を輝かせたカナトが間髪入れずに立ち上がった。
ちなみに立ち上がったカナトを見て間髪を入れずにリオがテーブルに崩れ落ちた。
「じゃーさ、えっ!?僕とカナとトアなら行ってもいいってことだよね!?」
「お前たちふたりじゃ目立ちすぎるだろ…」
リオが片手で目を覆ったまま言い返す。もう半分白旗を挙げているようにも見えなくもない。
「へーきへーき!変装していくもん!いざとなれば遠夜さんにあいつとあいつとあいつの記憶消しておいてって頼めばいーし!」
「…そんなこと頼まれたくありません」
「だーめ!頼まれるの!」
カナトが手に抱いていた兎を軽く遥希の腕の中に押し付けながら続ける。語尾には甘ったるくハートが付いている。
「皆の者、よく聞いてよ?人間の街でトアを守れるのは誰?」
ちなみにカナタは先ほどから呆れたように兎を構い続けている。
トアは気まずい空気になったのを察知し、少し離れたキッチンで今後の自由の行く末を見守ることにした。
「僕だよ僕!僕とカナ!」
「「なんっでそうなるんだよ!」」
遥希とリオが綺麗にハモってその言葉に噛みついた。
「見たでしょ?相手の能力。相性ぴったりなのはこのボ・ク・で・しょ!?」
「そ、それは…」
遥希とリオは口ごもり、遠夜は表情一つ変えずに読書に戻ってしまった。
「りーちゃん。」
「はい。」
カナトが学校の先生のように、リオを指名した。
「はい、敵が攻めてきました。戦いになりました。人間の街でりーちゃんはあーんなことやこんなこと、できるの?」
「そ、それは…。」
段々表情が強張っていく。
「はい通報。」
「…はい。」
カナトがビシッと指をさして勝ち誇ったように告げる。リオは諦めたように肩を落とした。
「ハル兄は?」
「…はい通報?」
「え、逆になんで?ハル兄は戦闘向きじゃないよね。」
カナトは流暢に演説を続けていく。
「とーやさんはもういいもんね?」
「はい。」
「さっすが遠夜さん!話がはやい!カナは力も強いし、感覚も鋭い。僕は誰にもバレないで攻撃も防御もできる!完璧なの。完璧な双子なの!」
カナト君は心酔した表情でトアの横まで駆け寄ってきて、腕に抱き着き言った。
「だから今日は僕とカナとダブルデートだよ」
「は、はい…。」
「嬉しいよね?」
「…。」
「ね?」
「もちろん!」
自由が奪われなかっただけましだと思ったトアが頷いた。
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