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「おまたせー!」
「…待たせた。」
玄関で待っていると双子が準備を終えてやってきた。
「なぁカナタ、か、代わろうか?お前カナトと街に行くの嫌がっ」
「リオ兄うるさ。行ってくる。」
「なっ…」
リオは諦めずに心配そうにカナタに声をかけて撃沈していた。
もしかしてまだどこかで心配してくれているのかもしれないと思うとトアはどうしてもドキドキしてしまっていた。
「じゃーん」
カナトはパステルカラーを取り入れた流行ファッションと呼べそうな服装で、中性的な顔立ちと明るい髪色にとても似合っていて、いつも以上にずっと可愛らしいイメージだった。カナトはロザリオを見せるのは嫌なのか、服の中に仕舞っていた。
一方カナタは、白いタンクトップにシャツを羽織り、スキニージーンズという、シンプルな服装。シンプルがゆえに、カナタの素材の良さが現れてしまっている。
ちなみに、綺麗な鎖骨の上に紫色の石が嵌ったロザリオをかけざるを得ないので、異常に顔の整ったヤンキーに見えなくもない。
「じゃ、いってきまーす!トア行こ!すっごくかっわいい!その服好きだなー僕!楽しみだね!その時計のネックレスもつけていくの?そんなのもってたっけ?」
「あ、あの…これは…!」
時計、そう言われただけでこの前の出来事がフラッシュバックする。もらった、なんてとてもじゃないが言えない。
しどろもどろになって冷や汗が吹き出しそうになる。それはリオも同じだったようで、佇んだまま、そわそわと視線を彷徨わせている様子がカナトの頭越しに見えた。どうか誰も気づきませんように、とトアは願った。
「時間とか気にしなくていーのにー。楽しかったらたぶん今日のうちには帰れないよ?」
カナト君がニヤニヤしながらトアの手を取った。
トアはカナトの言葉の内容と、リオの不自然なリアクションの二つで頭が真っ白だ。
「カナト、帽子被れ。」
「わー!やめてー!今日の髪の毛は無重力ヘアって決めてるんだから!」
かと思えばカナトがカナタに頭に帽子を乗せられ、暴れる。
「お前、人が寄ってきたらどうすんだよ」
「仕方ないじゃん、僕に寄ってきちゃうんだから!」
「仕方ねーじゃねーよ、いいから被れ。変装していくんだろ」
「あー!僕の完璧無重力ヘアスタイルがぁ!」
一通り騒いで満足したのか、双子はやっと玄関を出た。
「あの…寄ってきちゃうって、なんでですか?」
「えっと…。」
道を歩きながら不思議に思い、カナタに問いかけるとカナタは一瞬ちらっとトアの目をみて気まずそうに口ごもった。
「まー行けばわかるって!それより今日は何する?ねぇどこいく?」
かと思えばぴょこぴょこ嬉しそうに顔をのぞかせるカナトが視界に出たり入ったりする。
「いつもの買い出しと、あとはおふたりの好きなところへ」
「やったー!そしたら服みてー、クレープ食べてー、ねぇあと人間のデートは何するの!?」
「で、デートは3人では行かないんですよ?」
「いーじゃん、おんなじ顔だからノーカン!」
「あの、ちょっと意味が…」
苦笑いを顔に張り付けていると、カナタがはぁとため息をついた。
「トア、…離れるなよ。」
カナタは仕方なさそうにはしゃぐカナトを目で追いながら、小さく笑った。
「はい。でも、水がかかりそうになったら私の後ろに隠れていいですからね」
冗談ぽく肩をすくめて笑うトア。
「……。」
カナタは一瞬面食らった表情をしていたが、ふっと頬を緩ませ、つられるように笑った。
「俺がトアの後ろに隠れることはもうない。」
「えっ?どうしてですか?」
「さぁな」
カナタはそっけない言葉とは裏腹に、外の空気に気持ちよさそうに深呼吸をした。
「カナー!街だよー!ひっさしぶりすぎてワクワクする!」
「おい、はしゃぐなって…」
「ねぇクレープ食べたい!お店いこ!?」
「わかったから静かにしろ」
「はーい!」
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