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街に到着してすぐに、トア達一行はクレープ屋に立ち寄った。
「僕ねぇ、スペシャルイチゴミルフィーユとー、トッピングが、ホイップと、えっと、ち、チーズケーキも乗せちゃおっかな、、ねぇいいよね?許されるよね?でもチョコが一番好きなんだよね…」
長い注文を終えて、オープンスペースになっているカフェテリアに座ってクレープを食べ始めた時だった。
周りにいた若い女子グループがこちらを見たり、指をさしたり、ひそひそと話している。
「え、え、やばい、顔小さい!」
「やばい、めっちゃかっこいい…!」
当のカナトはクレープに夢中で気づいていない。
カナタは困惑した表情で深く帽子を被り直した。
「ねぇ、やっぱり声かけようって!やばいって!」
女の子たちはどうやらカナトとカナタを見て興奮しているらしかった。
「あのー!」
もじもじしていた女の子のうちの一人が、こちらに歩み寄ってきて話しかけてきた。
「ん?」
カナトがクレープを口にほおばりながら、振り返った。
「きゃ、っ…か、かわいいっ…!」
「あー、どーも。」
「きゃー!」
カナトが思いっきり愛想笑いをした。
普段のカナトを知っている身からすると身の毛もよだつような愛想笑いだけど、初めて見る人にとっては破壊力抜群のキラースマイルに見えるのだろう。
かつてトアの身にも数え切れないほどの本当の意味での殺意の笑みが降りかかっていた。
気づけば10人ほど女の子が群がり、大変なことになっていた。
カナタも気まずそうにぺこ、と会釈すると下を向いてしまった。
「あと…も、もしかして、か、彼女さん…?」
そして、お決まりのパターンでショック満載の視線が向けられる。
「あ、ううん、これはねー、メイド。」
「えええっ!」
「(かなとくぅぅぅぅぅぅん!)」
その女の子とトアのリアクションが面白いほどに被る。
「メイドさん、もしかしてお金持ち!?」
「そーそー。」
カナトは適当に返事しながら、クレープの紙を一生懸命に破っている。
「あのー!握手とか」
「ごめん、僕そーいうの苦手なんだよねーやっぱ人間てうざ(んっ)」
「すみません!仕事で疲れてるので、そろそろ休ませてあげてもいいですか?」
カナトの脆すぎる化けの皮が剥がれかける。ものの3分ももたなかったなんて信じられない。
すかさず口にクレープを詰め込み、その隙に女の子たちに声をかけた。
彼女たちの夢を壊させるわけにはいかない。トアには彼女たちのガラスのハートを守る義務があった。
「あっ、そうですよねごめんなさい!最後に写真撮っていーですか?」
「んっ、しつこ!あっちいけ(むぐっ)」
やっとのことでクレープを飲み込み暴言を吐こうと開いた口に、今度はカナタが自分のクレープを押し込む。
この時トアとカナタは確かに無言の内に連携プレーを獲得していた。
「きゃー!あっちいけって!うける!」
だけど女の子たちは吐かれた暴言もなんのその。
なんだか夢見心地でにこにこしている。
「行くぞ」
カナタとトアは満足の余韻に浸っている女の子たちを横目に、カナトを連れてなんとか脱出に成功したのだった。
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