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「こんな感じで声かけられることあるー」
人通りの少ない道を歩きながら、事の真相を告げられた。
カナタがもうたくさんだとばかりにため息をつく。
「僕はカナと合法で絡めるからいいんだけどーくっついたりしたら超喜ばれるよ」
「お前、ほんとに頭おかしい…」
カナタは呆れてものも言えないようだ。
「えー、こんなので喜ぶ人間の頭がおかしいだけじゃん!こちとら生まれた時からなのにね!」
「お前…十分おかしいだろ」
ぎゃいぎゃい言い合う双子を見ていると笑いが止まらない。
「ま、まぁまぁ…」
「大体俺はひとりでいれば声なんかかけられねーんだよ」
「それはカナの影が薄いからでしょ?やっぱり僕の生まれ持ったプラチナブロンドが」
「あぁ?なんだと?」
喧嘩になりかけそうだったので、慌てて間に入った。
「さ、二人とも気を取り直して買い物ですよ!」
しかし、カナトがくだものを量り売りしている店をスルーしてデパートの入り口に向かって行こうとするので慌てて止めなければならなかった。
「ちょっと待ってください」
「えー、もっと面白そうな場所行こうよ!ほらここ上にゲーセンとかあるよ!?」
「だめですよ…明日から食べるものなくていいんですか?」
「え?あるよ?ここに」
少し考えたカナトは怪しい目をしてトアの腰をぎゅっと抱き寄せた。どうやら無理やりでも納得させる方法を考えたらしい。
「言うこと聞いてくれないとー、いーま…ここでー…耳から、食べちゃうよ…?トーア!ねぇお願い?いいでしょ?」
「ひっ…ちょ、ちょっと・・・!」
抱き寄せたまま髪の毛越しに耳に乱暴に唇を押し付けて、カナトが掠れた声で囁く。
ぞわっと背中をくすぐったいものが駆け上がり、腰から急激に力が抜けていく。
「カナト。覚悟できてんだろうな」
トアを挟んでカナトの反対側でぞっとするほど低い声が聞こえた。
カナタが珍しく優しい笑顔で腰にまわされたカナトの腕を掴んでいる。
メキ
「さーてと!メモ持ってきたんだー!まずはオレンジだね!オレンジはー1、2、3、」
突然カナトが雷に打たれたかのように飛び上がり、元気に果物を探し始めた。
カナタのぶっきらぼうな命令に、きびきびと動きまわるカナト。
「あとサクランボ5パック、メロン、ラフランス」
「はーいっ!」
ほっとしてカナタを見れば、疲れたように口の端を少し上げて笑みを浮かべた。
今日の目当てはこの曜日限定で開催されるマーケットだった。
広場に所狭しと並んだワゴンの上に、入荷した新鮮な果物や野菜、手作りの品など、たくさんのものが売られている。
カナタとカナトがいるワゴンのとなりでトアも買い物を始めることにした。
「えっと…赤いリンゴが10個、青いリンゴが…」
その時。
隣のワゴンで、困ったように質問を繰り返す店員が目に入った。
「えっと、いくつほしいんだい?」
「………」
見れば一生懸命に首を横に振る女の子が必死に何かを訴えている。
ゆるくウェーブがかかった長い髪をふわふわと揺らし、とにかく一生懸命首を振っている。
黒髪とは違う、青みがかったグレーの髪。光が当たると、時折髪の色素がうっすら透けて毛先が綺麗な碧色に見える。
だけど、彼女自体がふんわりとした雰囲気で現実感がまるでなく、髪の色ですら見間違いのように感じられた。
トアは無意識に何度も瞬きをしていた。
女の子の意図はなかなか伝わらないのか、何度も何度も質問で返され、彼女はどんどん俯いてしまった。
そして最終的に、恐ろしそうに目を閉じてしまった。
「こ、困るなー、後ろもつかえてきちゃったし、お客さん、なんですか?どれをいくつ欲しいんですか?」
店員も書き入れ時のこの時間帯に後ろに人の列ができているのが気になるのか、少しイライラした声を出している。
気づけばトアはその女の子に歩み寄っていた。
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