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「あ、いたいた!もう、お金持たないで行っちゃうんだから…あ、いくらですか?私が払います!」
「あー助かったよ!それで全部でいくつ欲しいんだい?バラじゃ売れないけど3個からなら…」
女の子ににこっと笑いかけて安心させてから、店員に応える。
「あ、じゃあ…3カゴ買ったらいくらになりますか…?」
「え…?カゴ?3個じゃなくて?」
「あ、は、はい、パーティーで使うので!」
店の店員はすでにリンゴでいっぱいの紙袋を持っているトアを見て驚いて目を丸くし、嬉しそうに籠からプラムを出して袋に詰めた。
「たくさん買ってくれたから2,3個おまけしておいたよ?あと最近入荷したばかりの珍しいこれも入れとくから、食べてみて美味しかったら次は買っておくれよ!」
「わー!ありがとうございます!」
プラムパーティー…?
袋を渡しながら店員がぼそっと呟いたが、愛想笑いでなんとかごまかす。そこは触れずにそっとしておこう。
「さ、お買い物終わったよ、行こう?」
女の子のほうを向いて笑いかけると、女の子は驚いて目を丸くしてしばらくトアをじっと見つめていた。そして、恐る恐る頷くと、トアについて歩き始めた。
「はい、これ…3個、ほしかったんだよね…?」
「…!」
プラムを3個渡すと、その女の子はアーモンド形の綺麗な瞳をさらに丸くして、トアを穴が空くほどに見つめた。どうやら彼女はちゃんと存在していたようだ。
「そ、そんなに見つめたら穴あいちゃうよ…」
なんだか恥ずかしくなり、照れ笑いする。
「………」
しかし女の子はハッとするといらないとプラムが乗った両手をぐいっと差し出してきた。そして自分の腰の横に下がっているポシェットに視線を落とす。
「お金は大丈夫!これおまけでもらったやつだから、ね?」
「………」
その子はまた不思議そうにトアを見つめた。
瞳の色もとても色素が薄く、神秘的なブルーとグレーが混ざったような色をしている。
身長はトアと変わらないくらいで、襟元にキラキラと控えめなビジューがついた淡い水色のワンピース姿だ。
前と後ろで長さの違うフレアスカートになっている裾は、膝が見えていて、華奢な足首に光るアンクレットが印象的だった。
小さな口が何か言葉を言いたそうに開き、また結ばれた。
「あ、トアー、いたいた。何してるのー?もう買い物とっくに終わったよ?」
そこへカナトがひょっこり顔を出した。
「あ、すみません…」
「あれー、また僕のファン?」
カナトが女の子に気づいてにこっと微笑みを飛ばした。
その瞬間、彼女の瞳が驚きから、恐怖へと見る見るうちに移り、そしてトアと彼の間を何往復もした。
彼女が心なしかピリッとした表情のまま、歩み寄ってくる。
「カナト、一回荷物置かね?」
そこへカナタも現れた。
ぱたりと歩みを止める女の子。
焦りの表情を浮かべて、双子の顔を交互に見やっている。
「あ、カナタ君!私もリンゴ買ったので貸しロッカー探しましょうか?」
トアが双子に話しかけた様子を見て、まだ警戒したような視線をこちらへ返してきた。
「あの、大丈夫ですよ、この人たちは友達です。」
とりあえず安心させようと話しかける。
「友達じゃないよねー?正確にはメイドだよねー?」
「カナト君…そうですけど今は友達ってことにしておかないと、カナト君の人格が疑われますよ?」
「どーぞ疑ってくださーい。」
「あの?大丈夫ですか…?」
彼女は鋭い視線で双子を見つめている。
なかなか口を開いてくれない彼女を心配したトアの言葉に双子の視線が同時に彼女に向いた。
「トア、この子言葉が話せないみたいだよ?」
カナトが少し眉をひそめて真面目なトーンでトアに耳打ちした。
「えっ…あ、待って…!」
その間にも、彼女は走って、人ごみの中に消えてしまった。
「あー、行っちゃったね!さー!満を持して!れっつ、ゲームセンターっ!」
カナトがトアとカナタの手を取り、颯爽と歩き始める。
「は、はい…。」
トアはさっきの女の子のことが気がかりで、引っ張られるがまま、生返事をした。
つづく
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