第19話 悪魔を照らす天邪鬼

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第19話 悪魔を照らす天邪鬼

「きたきたきた!はじめて来た!やばい!すごい!クレーンゲームの本物初めて見た!」 「カナト・・・はしゃぐな。人が見てる。」 「いいじゃん!どーせこんだけ人ごみだったら僕のことなんて・・・いや、見てるか。」 ついに1番避けたかった場所に到着してしまった。 顔中笑顔にしてゲームセンターを見回すカナト。 今まで興味を持っていなかった、下等生物、人間の文化。 それに出会ってしまった彼は生き生きと、ワガママの限りを尽くしていた。 「このアームで獲るんだ!?人間はお金かけてこれやるんだ!?えーっ、斬新すぎ!」 「獲るのに困らないのはカナト君だけですよ」 ガラスに張り付き、ケースの中のクマのぬいぐるみを凝視するカナト。 今にもクマが浮いてこちらに落ちてきそうでハラハラする。 「えー!やりたい!トア!お金!」 「カナト君だめですよ、無駄遣いは」 「おーかーね!家の財布出して!大丈夫大丈夫!とーやさんには教育費って言って!ね!?」 「だめですよ。」 「…じゃー仕方ないからお金入れずにアーム動か…や、これごと倒せば」 「は、はい…!どうぞ!」 カナトはこちらを見もせずに硬貨を受け取ると、投入口を探し当て、ドキドキした様子で入れた。 「きたー!動いた!ねぇカナ!どの子欲しい!?」 「あれ」 カナタ君が適当に指をさした。 「あの白い羽のね?よっし!いけ!よし!」 バシっと力一杯ボタンを押す音が響く。 「そこだ!あっ、遅い!止まるの遅いって!ばか!ぽんこつ!使えない!スクラップ!」 アームはカナトが狙ったクマではなく、そのすぐ隣の山に刺さった。 「あーあ、つまんないの。やっぱ人間使えなーこれで喜ぶとかどうかしてるー」 バン、と機械に八つ当たりをしてさっさと立ち去ろうとするカナト。気が短いせいで楽しみ方の半分くらいを捨ててしまっている。 「カナト君!見て!まだですよ!」 「引っかかってる」 「えっ!?あ、ほんとだ!」 あがってきたアームは別のクマのタグに引っかかっていた。3人して思わずガラスに張り付いてしまう。 ゆっくりぬいぐるみの山から引っ張り出されるクマ。 「見てください!完全に浮いてる!」 「しっぽ生えてるな」 「ほんとだ、かわいいですね」 「えー、かわいくないっ」 好き勝手に思ったことを口走りながら、あと少しに迫ったアームを見つめる。 ゆらゆらと不安定に揺れるクマのぬいぐるみには黒いコウモリの羽としっぽが生えていた。 「あ!」 そのクマは出口目前というところで、落下してしまった。 「だめ!そこで止まっちゃだめ!もっとこっち!」 カナトの声が聞こえたのか、クマはもう一回転して出口に飛び込んだ。 微妙な沈黙が、3人を包む。 「…。な、なんだよっ」 「いえ、なにも。」 「とれた、な。」 「なんだよっ!なんもしてないよっ!」 「・・・。」 「…わかったよ、したよ!だってほしかったんだもん!!」 ちょっと赤くなり怒るカナトを横目に、取り出し口からぬいぐるみを取り出した。 クマはかわいらしい顔をしているのにも関わらず、羽としっぽの他に牙が生えていて、頭には小さなツノも生えていた。 そして両手には赤いハートのクッションを抱いている。 「吸血クマだ!ね?カナ欲しかったでしょ!?このハートは大好物の心臓だよね!?」 「いや、これアクマちゃんって書いてある」 「…で、でしょ!?アクマでしょ!?欲しかったよね!?」 カナトは必死にカナタにむかってぱたぱたとクマの羽を動かしアピールしている。 「別に俺は欲しくない。」 カナタはちょっと気まずそうに目を反らしている。 「え、かわいいです!!!」 「「え…。」」 大きなトアの声にふたりが振り返った。 「うそだろ…?これが?」 「う、うわー!?カナもしかしてトアにあげたかったからあの天使のほうが良かったの!?え…ショックすぎて立ち直れないんだけど僕。なんのために使ったの体力。うそでしょ。」 カナトが心の底から無駄な事をしたという表情をカナタに投げかけている。 「どうみたって俺らはいらねーだろ」 そっぽを向いたまま取り合わないカナタ。 「はープライド捨てて損したっ。じゃあトアにあげ…」 カナトははたと黙り込んで数秒間考える素振りを見せた。そしてパッと顔を上げると、唐突にいやらしい天使スマイルでトアに笑いかける。 「なーんて言ったけどさーこれトアのために取ったんだよ?どーしても欲しいって言うから!しかたなーく!欲しがるトアが可愛すぎてずるまでしちゃった!ほらほら、遠慮しないで?」 カナトがトアの両手を取り、ぬいぐるみを押し付けた。どうやら別のプライドの使い道を思いついたらしかった。
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