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「わ、わぁ、ありがとうございます!」
お礼を聞いているのかいないのか、カナトの興味はさっさと次の対象へと移っているようだった。
「次!次はあれ!プリクラ!」
「…帰る。」
カナトが指さす先をちらっと見た瞬間、カナタの目の揺れがピタリと止まり、すごい勢いで歩き出した。
「だーめーカナ!さ、行くよ~!一節によると女の子がいないと入れない神聖な場所らしいよ!たのしみだね♪」
カナタの腕を掴み、一緒に歩きながら緩やかにカーブを描きこちらに戻ってきたカナトにもう一方の手で腕を組まれる。
「か、カナト君、本気ですか?あ、あんな、じょ、女子高生が群がっている場所に…」
「そうそう!トアのこと女の子って認めてあげたんだから、ありがたくついてきてよね?」
「み!認めなくていいので!帰りましょう…!」
「やめろ、むり、おい!」
「双子モデルの実力見せてやろうね~!」
嫌がるカナタとトアを引きずってカナトは勢いよくプリクラコーナーに飛び込んだ。
「うわー!いろんな衣装がある!僕これ着たいなぁ!」
セーラー服を見て楽しそうに呟くカナト。
トアは咄嗟に周囲を見回し、誰かに聞かれていないか確認をした。
「カナはこれが似合うな~!黒髪だから!」
巫女さんが着る赤い和服を指さしカナトが目を輝かせている。
「…帰る。」
「ちょちょちょちょ!はいこっちくるー!」
カナトはカナタの腕を捕まえながら適当に服を選ぶとトアに押し付けた。
「これこうやって楽しむもので合ってるよね!?別人になれる機械でしょ!?」
「そ、それはあまり大声では言わないほうがいいですよ…」
違いますよ、とは否定できなかった。その後に返ってくる言葉が容易に想像できたからだ。
「どれにしようかな〜」
カナトは始終楽しそうに衣装を選んでいた。
結局最初は猫の耳をつけて撮ることになった。
「僕は白猫!僕のブロンドと同じくらいふあっふあ。んでカナは黒猫。トアは…雑種?野良猫ね。」
「私のはトラなんですが」
「あー!見てあと15秒しかない!早く並んで!」
「聞いてないです…よね…」
1枚目のプリクラは全員なんだか微妙な顔をして写っている。
「はい、2枚目は、にゃん!てして!ほら!」
「うわ、手が勝手に…」
不本意ながら完璧なニャンニャンポーズを決めさせられてしまっている横で、カナタが見えない力と無言の闘いを続けている。
「…かな…と…覚え…てろよ…」
「かっ、カナタ君!諦めてください!腕が折れます!!」
機械のお姉さんの甲高い声にされるがまま、結局、カナトのやりたい放題となってしまった。
「え!?これ僕!?やっぱり別人だ~!すっごい盛れてる!楽しい!」
しかし、出来上がったシートを見つめたカナトの興味にはすでに火がついてしまい、止まらない。
あっという間に1回目を撮り終え、衣装を選び始めた。心なしか周りに人が増えているような気がしてきた。
「僕たちの為にある衣装見つけちゃった…。見て!」
黄金色の瞳を潤ませてカナトが興奮したように走ってきた。
「天使と悪魔…。」
手には天使と悪魔のコスチュームを持っている。
「もちろん僕が天–」
「お前は悪魔。」
「…。トア!ねぇ!」
カナタに冷たく言い放たれ、さっとこちらに顔を向けて潤んだ目で見つめてくるカナト。ここで負けては、だめだ。
「悪魔です。」
「…。もう!いいよ!はいカナ悪魔!」
カナタは嫌々赤い角と黒い羽、しっぽをつけられ不機嫌を通り越しておそらく無言でキレているのだろう。本物の悪魔も逃げ出すようなどす黒い表情を浮かべている。
それに対してノリノリのカナトは白い羽と天使のわっかをつけてトアの衣装を選んでいる。
「んーやっぱ本物のメイドだしやっぱメイド服でいっか?うわーメイドの制服初めて見た!案外かわいいじゃん!家でもこれ導入する?」
「…。私も帰っていいでしょうか?」
静かに問いかければカナトはいたって普通に続ける。
「はい、更衣室いってらー!なんならここで着換えさせても」
「…いってきます。」
「はいよー」
結局、抵抗するだけ、無駄だと知った。
結局着替え終わり、プリクラの機械に入ると、もうすでに撮影が始まっていた。
「あー遅いよメイド!カナとふたりで始めてるから!ちょっとーそろそろこっちむいてくれたって」
カナトがそっぽを向くカナトの首に腕を回し、お取込み中の様子だ。
「どうぞ、最後まで楽しんで!」
「頼む…トア…もう俺…限界…。」
「えっ」
いつもクールなカナタとは思えない弱々しい口調。
カナトに捕まったカナタから助けを求めて縋りつく視線を感じ、仕方なく踏みとどまる。
「はい、記念にさっきのアクマちゃん持って!カナト様に獲ってもらいました♪って書こうね。最後の1枚だよ!でもこれだとトアが悪魔派みたく…」
そうこうしているうちに、プリクラ機が甲高い声でカウントダウンを始めた。
「へぇ。トアは悪魔派か」
カナト君の声にちょっと気を良くしたのかカナタがにやっと笑ってトアの肩に手を置いた。
「ちょっと、ダメ!僕派!」
結局トアに極限まで寄って天使の笑顔をするカナトと、トアの肩に腕をかけてそっぽを向くカナタという1枚がベストショットとなりプリクラは終了した。
「わ~出てきた!やっぱ完全に別人だ~!自分じゃなくて楽しめるの人間ってすごくない?」
「カナト君は顔が小さすぎて人間味がなくなってるだけですよ」
「人間じゃないもーん」
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