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市場のど真ん中でカナトにもう一方の手を引かれるまで、カナタは止まらなかった。
「カナ、もう大丈夫だから、ここで止まって!」
「カナト、説明しろ!何が…?」
トアはもちろん、カナタも何が起こったのかわかっていない様子だった。
「トアが金縛りにあってた、」
「金縛り?」
カナタがトアと目を見合わせ、視線をカナトに戻す。
「早い話し、金縛りの原因はトアたち人間にとっては悪魔、魔物の類。」
「悪魔・・・?」
鞄から下がっている、ついさっきもらった可愛らしいクマのぬいぐるみが目に入る。
ゆらゆら揺れる蝙蝠のような黒い羽に、矢印のしっぽ。
「悪魔ってゆっても、小さいやつ。普通は人間には興味示さないんだけど…たぶんトアが、僕たちと長く一緒にいたせいかな?ま、りーちゃんに聞けばわかると思う」
「何もいないぞ…?」
カナタはトアの周りの空間を睨みながら、ふと空を掴んだ。
「僕には見える。僕の血には、見えないものを見る力があるからね」
カナトは何もないトアの頭上を眺め、呟く。
「まぁ、小悪魔なら僕の悪戯とたいしてかわんないでしょ?」
かと思えば、不穏な空気をかき消すように、明るく言って、トアの腕に抱きついた。
カナトは最後に買い物メモには書いてなかった骨董屋に用があると言った。
店に入るや否や、店員を呼びつけるカナト。
「すいませ~ん、手鏡全部持って来てもらえます?」
ずらっと並べられた、おどろおどろしいデザインから、シンプルなものまである古い手鏡。
カナトは真剣な目つきで、一つ一つ眺めては、トアを映したりしている。
怪訝そうな顔で見ている店員の視線を遮るように、カナタが体の向きを変える。
「…あの…」
「これ、かな…。」
カナトは一つの手鏡を手に取るとトアを映した。
その瞬間、トアの肩の重みがふっとなくなる。
「あ…」
つい驚いて声が出てしまった。今まで何も感じていなかったはずなのに、明らかに肩が軽くなったのだ。
「よっしゃ!これ下さーい。」
カナトはその手鏡をぶらぶらと振って、店員に手渡す。
「鏡なんか買って、どうすんだよ」
小声で問いかけるカナタに、カナトはウインクしながら答える
「まぁまぁ、見てて?」
帰り際、ロッカーに立ち寄り、買ったものもを大量に取り出し両手に抱える。
「三人だと買える量も違いますね…」
「俺が持つ」
カナタがトアの荷物にも手を伸ばす。
その瞬間、カナタの向こうに見える道の端の植え込みからキラっと光の反射を感じた。
「ん?」
いつもなら見逃してしまうような些細な違和感だったけれど、トアはその光に吸い寄せられるかのように、草むらに近づく。
「これ、あの子のだ…」
そこにあったのは、あの不思議な女の子が足首に着けていたアンクレットだった。
華奢な足首に大きめのアンクレットが目立っていたせいで、はっきりと記憶に残っていた。
拾い上げると、思っていたよりもそれはずっしりと重く、はめられている宝石のような小さな石がきらりと光った。
「トアー行くよー?」
カナトの声に顔をあげ、慌てて返事をして駆け戻る。
アンクレットはそっと鞄に仕舞うことにした。
またいつか、あの子に会えるかもしれないという、淡い期待が胸に灯った。
鏡を持たされた帰り道、元来た道を3人で歩く。
「これはね、照魔鏡って呼ばれる種類の鏡。」
カナトが手鏡をトアから受け取り言った。
「照魔鏡…。」
「悪魔はね、この鏡に映るのを嫌がる…だから、こうすると、逃げてくの。長く映り続けると、死んじゃうからだって。」
カナトは銃でも構えるように鏡を振り回してみせる。
「この世界には悪魔なんていうものも存在するんですね…」
トアの上の空の発言にカナタが笑いながら付け足す。
「俺たち吸血鬼も存在しただろ。悪魔は疑うのかよ」
「確かに…そうですね。」
不安げに肩を落とすトアに、カナトが続ける。
「間違いないよ。帰ったらすぐ遠夜さんとりーちゃんに報告しようね!」
「また迷惑をかけてしまいますね…」
リオの震える声が脳裏に響き、ズキンと一瞬心が痛む。
「そんなことくらいで僕たちに迷惑かけれると思ってるの?自信過剰は人間のお家芸だもんねっ」
カナトの蔑んだような言葉が、今は温かい。
「トアに魔物を見る力はないから…何にも映らないかもしれないけど〜ね?」
「え…?」
「…とりあえずこれで怖い思い、しないでしょ?お守り。」
カナトはトアに手鏡を渡してそっぽを向いてしまった。
「カナトくん…。」
びっくりして、カナトの顔をじっと見つめるトア。
「…ん、ん?なーんだ、いらないならあげな−」
「ありがとうございますっ!大事にします…。」
裏にバラの装飾が施された、ずしりと思い黒い手鏡。
「素敵な鏡ですね…。」
「人間にはただの鏡にしか見えないんだろーけど、実は結構あるんですよね」
「カナト、なんでそんなに詳しいんだよ」
カナタが感心したように鏡を見ながら呟く。
「遠夜さんがね、何でもかんでも見えちゃう僕に、昔教えてくれたんです。」
昔話を懐かしむように、カナトが空を見上げて言った。
夕日を浴びた3つの影をつれて、トアと双子は家路を急いだ。
つづく
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