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第20話 襲撃
「話とはなんですか?」
遠夜がカナトに向かって本題に入るように催促した。
「街で、トアによくないものが寄ってきた。」
「よくないもの…魔物か何かですか?」
「…あれはどっちかっていうと…悪魔。」
人間や吸血鬼が見ることのできない何かが見えるカナトは、言葉を選びながら続ける。
「おかしいよねっ?他の人間には見向きもせずにトアだけってさ」
悪魔とは、何百年という昔から存在するいわゆる混沌とした悪しきものをまとめた一つの定義である。それは様々な国や地域で変化しながら、伝承が残されている。不運や不幸の化身とすることもあれば、その人自身や存在自体を悪魔と呼ぶこともある。
「りーちゃん、何かわかんない?なんか長く僕たちといるからそうなっちゃったんじゃないかなーって。」
「それは…。ないと思う…。」
リオは、様々な文献や論文を頭の中で引っ張り出し、考えているようだったが、はぁという深いため息とともに、ソファに沈み込んだ。
「じゃぁ…なんでだろ」
髪を乱暴に後ろへと撫でつけながら、遥希が呟く。
「体質…でしょうか」
遠夜はいつかトアとふざけて交わした会話を思い返し、まさか、と口籠もった。
「僕たちと出会う前はふつーの人間だったんだよね?体質ってそんなに急に変わるもの?」
「体質…に当たるかはわかんないけどそういった類のものが集まりやすい人間ってのなら聞いたことがあるけど」
–『その身に受けた呪いが災いを呼ぶ』って…
リオが無意識に頬を触りながら呟いた。視線は遠くの一点を見つめたまま動かず、思考を巡らせているようだった。
「呪い…?バカバカしい」
カナタがソファから立ち上がり、嫌なものを吐き捨てるように言った。
「だよね~カナっ僕たちのトアがそんなわけないよねっ」
「…。」
トアはちょうど部屋に行っていてこの場にはおらず、一同は、沈み込んだトーンのまま沈黙を続けた。
「なんだっていい」
「カナ…?」
沈黙を破ったのはカナタの真っ直ぐな声だった。
「傷つける奴がいたら、悪魔だろうが天使だろうが俺が絞める」
カナタは言葉とは裏腹に悔しそうに自分の手に視線を落としている。
「カナ…。その時は僕が天使の方をバチボコにしてあげます」
「カナト、なんでそう、性格の悪さが滲み出るんだよ」
リオのツッコミで場の空気が和みかけたその時。
「カナタちゃん、ずいぶんと変わったね!」
信じられないことに、トア以外の女の声が屋敷に響いた。
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