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ミラはおもいっきりウインクすると、遥希をソファに突き飛ばし、部屋をでていった。
ソファに突き飛ばされた遥希は受け身をとることもせず、沈み込む。
全員がミラを追うことよりも、瞬間にして遥希の方へと体を向けた。
そうしなければいけないことが起こってしまったことに、皆気がついていた。
「遥希…落ち着いて…大丈夫です…」
遠夜がなだめるようにそうっと、遥希に一歩一歩近づいていく。
しかし遥希は起き上がった瞬間、扉の方に向かって、ありえないほど強く、床を蹴った。
その体に誰よりも早く飛びついたのはカナタだった。
「ハル兄、落ち着いて…っ!」
床に叩きつけられた二人は、もつれあったまま、近くにあったテーブルに突っ込む。
木でできたそれは、おもちゃの積み木が崩れるように、跡形もなく崩れた。
遥希の長い足が、カナタの鳩尾を捉え、カナタは床の上を滑るように吹っ飛ぶ。
「ハル兄!!カナっ!!」
カナトの悲鳴のような叫び声が聞こえる。
「遥希っ!やめろ!!」
間髪入れずにリオが飛び込み、遥希を床に抑えつける。瞬間、体に組み付き、腕の関節を極めた。
「ハル兄目を覚ませ!!」
床に投げ出されていたカナタも起き上がり、リオに加勢する。
「遠夜さんっどうしようっ…!」
カナトは真っ青になり、立ち尽くしている。
そこにいつもの冷静さはなく、今にも泣き出しそうな目で遠夜に縋った。
「遥希…気をしっかり!」
遠夜もリオに加わり、遥希の後ろからがっちりとその体を羽交い締めにした。
「だめだ…!このままじゃ遥希の腕が折れる!」
余裕のないリオの声が飛ぶ。遥希は自分の腕が折れるのも厭わず腕に力を込め、何かに囚われたように牙を剥き、トアの元へと一直線に向かおうとしている。
5人の兄弟の中でも一番体格のいい遥希の一切の加減のないフルパワーは、3人がかりでも同じ場所に留めておくのがやっとだった。
「絶対、離さない…!カナト!!!頼む!!!!」
床の上で暴れる遥希を押さえつけながらカナタの瞳が、動揺して揺れるカナトの瞳を捉えた。
「ぼ、ぼくっ…できないっ…殺しちゃうよ!」
ガタガタと震えるカナトは尚もその場に立ち尽くしている。
「大丈夫だっ、動きを止める…だけっ…!お前にならできるっ!!簡単だっ!」
暴れる遥希を抑え続けるカナタの額には汗が滲み、それでも少しだけカナトに笑顔を見せた。
「わかった…わかったよ…ハル兄じっとしてて…!」
首から下げていたロザリオを床に乱暴に投げ捨てると、カナトが両手を遥希に向け、目を閉じた。
「大丈夫だ、落ち着け…全身を均等に…」
「均等に…縛れば…いいんだよね」
共鳴するかのように双子の声が屋敷に響く。
徐々に遥希の手足の動きが緩慢になり、動きが止まり始めた。
「ミラの呪いの効果はそこまで長くないっ…」
リオが腕の押さえる力を緩めながら頷いた。
「このままもう少しだけじっとしていましょう…リオ…トアさんのところに」
遠夜が遥希の頭越しに、扉を見つめる。
「わかった」
リオは遥希から体を退けると、一飛びで扉の向こうへと消えた。
カナタと遠夜、そしてカナトは時が過ぎるのを…ただただ、待つことしかできなかった。
つづく
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