第21話 歪んだ鏡に映る世界

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「街で小さな悪魔が寄ってきていたそうです…」 「…普通は人間には寄ってこないわ。」 「他にも、何か起こるかもって思うと必ず悪いことが起きて」 「全部、あなたが思った通りのことが起こるのね?」 ミラの言葉に引き出されるように、言葉が溢れてくる。 「そう、想像したら、必ず…!」 トアの目には、すでに大粒の涙が溢れていた。 町で遭った出来事の本当の意味が、いまやっと理解できた。 カナトはお守りと言って、照魔鏡をくれた。 しかし、きっとこのままこの屋敷にいたら、もっと大きな迷惑をかけることになる。 その事実はそれほど単純なことで、混乱するトアの頭でもすぐにわかることだった。 「泣かないで…!でもあたしなら、あなたを吸血鬼に変えて助けてあげられる」 「え…?」 「純血の私が一噛みすれば、ね?」 その瞬間、美しいガーネットが揺れた。 くるりとトアの体の周りを一周し、ミラは続ける。 「ヴァンパイアになれば、悪魔にも対抗できる。一人でも生きていける」 呟くように、しかし、しっかりその耳に刻み込むように、ミラの言葉が紡がれる。 「ミラ…」 「そ、あたしみたいに強くね。でも2人ならもっと楽しいかも…」 素敵なことを思いついたように綻んだミラの顔には純粋で、無邪気な笑顔があった。しかしその裏にある漠然とした寂しさにトアが気づくことはない。 「…本当……なの?」 「えぇ。」 ミラは優しく微笑んでトアにまた一歩近づく。真っ赤な二つの双眸がこちらを見ている。 「私がヴァンパイアに、なれば、」 「そう、ヴァンパイアになれば、悪魔にも対抗できる。」 「…私…。」 霞むトアの脳裏に浮かぶのはリオの優しい笑顔だった。 泣いたあとだからだろうか、トアの頭にはぼうっと靄がかかり、いつしか思考はうまく回らなくなっていた。 まさにミラの牙がトアの首筋に触れようとした、その時。 「トアっ!!」 リオが勢いよく部屋に飛び込んできて、トアをミラから引き離した。 「…リオくん…?」 トアはまだ頭がぼーっとしていて、何が起こっているのか掴めない様子でリオを見上げた。 「リオ、タイミング悪ーい!」 「トアに触るなって言っただろ!」 「いやね、リオったらそんなに−」 「ふざけるな!」 バスルームにリオの怒鳴り声が響いた。 瞳の赤が少しずつ燃えるように色づき始める。 怒鳴り声に、泡が弾けたかのようにトアの頭に音や景色が急速に戻ってくる。 「リオ…。そう、そんなにその人間が大事なのね。でも、いい?あなたがそうやって大事にすればするほど、その子は危険に晒されるのよ?見たでしょさっきの遥希を!」 「…っ!」 リオの瞳に動揺が走る。トアがハッとしてミラの方を見た。 「あなたの傍にいられるのはあたしのように強いヴァンパイアだけ。そうでしょう?その胸の傷がついた時の戦いだって、あたしがいなかったら」 「ミラ…その話はやめてくれ!」 ミラの声をかき消すように、リオの荒々しい声が響く。 「やめないわ。本当のことだもの。」 ミラはリオの手を取ると、懇願するように訴えた。 「人間に関わって何になるの?」 飛び込んでくるその言葉がトアの心に突き刺さる。 「…。」 ミラの手を振り解けないリオは、黙って俯き、拳を握りしめた。 「リオ君…。」 「トア…ごめん…。」 リオの口から不意に溢れた謝罪は、トアの心に大きな傷を残す。 「まぁ。…でもそんなに大事なら。力ずくでも奪っちゃうんだから。それにやっと友達、できそうだったのに…。」 ミラのつぶやく声に続いて、強い風が部屋に大量に吹き込んだ。 窓が開けられていた。 「リオ、いいよね?リオが悪いのよ。」 「待てっ!!」 ミラが窓から姿を消し、ミラが出ていった窓から、強い風が吹き込んで、トアの髪を乱して行く。 トアは一人、部屋に座り込み、呆然と、ただただ涙を流した。
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