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その瞬間、また歌が聞こえてくることに気が付いた。
トアを元気づけるかのように、明るい歌声が聞こえてくる。
それは不安や迷いを消し去るのには十分だった。
「こっちね…!」
トアの足は歌に導かれるように、洞窟の入口へと向かった。
「えっ…」
驚きのあまり立ち止まる。レディに会いに行ったときのようにまた薄暗い洞窟が続いているものと思い込んでいた。
覚悟して一歩足を踏み入れるとそこは、急激に階段のように足場が下へと続いており、そう遠くないところに目を見張るほどのコバルトブルーの泉が広がっていた。
そして洞窟の天井は丸いドーム型を描き、まるで卵の殻のてっぺんを割ったかのようにぽっかりと空いた頂点には青い空が見えた。
そこから射す日の光が美しい光の帯となり、水面をキラキラと輝かせている。
「きれい…」
呆気にとられながら、足場を降りていく。岩と岩の隙間には青々とした花や草も生えている。
まるで人が降りることを想定しているかのように、足場は下りやすい間隔で階段のように続いていた。
歌声がどんどん近づいてくる。
−あの岩を回れば、あなたに逢える…!
いつの間にか自分の心の中で、何故かこの歌声の主とアンクレットの持ち主が重なっていることに気が付いた。
何故なのか、それはわからない。一歩足を進めるごとに、直感に近い何かが、確信に変わっていった。
この美しい泉のように澄んだ瞳がじっとこちらを見つめていたあの瞬間を忘れることができなかった。
きっと彼女の歌声も、こんな透き通った色をしているのに違いない。ついに泉のすぐそばまで降りてきた。大きな岩を、一歩一歩まわる。
歌声の響きが、ついに何の隔たりもなくトアの鼓膜を震わせている。心臓が高鳴っている。
「これ、渡したくて…」
思い切って目を閉じて、岩場を回り切った。
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