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「…。」
彼女は苦笑いしながら上半身を泉からのぞかせた。
さっきまでの胸元を隠す美しいフリルのレースではなく、ずぶ濡れのワンピースに着替えている。
彼女は浅いところまで泳いでくると、注意深く両膝をついた。
そして、一歩、一歩、膝を立て、立ち上がった。
ワンピースから盛大に水が滴り落ち、彼女は気まずそうに無言でトアの顔色を窺う。
その仕草と水の滴り具合に思わず吹き出してしまう。
「人間に変身するのも、楽じゃないらしいね」
「・・・」
彼女も諦めたように裾を絞りながら笑っている。
濡れて張り付いた髪をどかしたり、ワンピースを絞ったりわたわたしている。
「し、絞るの手伝おうか−」
その瞬間、毛むくじゃらの犬がそうするように、彼女は盛大に頭を振った。
「ちょっ、待って、嘘っ・・・!」
ものすごい勢いで水滴が飛んできたのでつい悲鳴のような声があがってしまう。その声を聴くや否やバツが悪そうにしゅんとしてこっちを見てくる少女。
「あ、い、いや…。いいよ!全然いいよ!むしろ今度から最初からそれやろう!ね?」
元気づけるように慌てて駆け寄ると、彼女はぱっと笑顔に戻りうんうんと頷いて見せた。ちゃんと右足にはアンクレットがはまっている。
「これがないと人間になれないんだ…?」
「・・・!」
うん!と勢いよく頷いて見せた彼女はトアの手を取ると、入り口をつんつんと指さした。
「え…?帰り道教えてくれるの!?」
「・・・!」
任せなさい!と言わんばかりに大きく頭を縦に振ると、びしょ濡れのワンピース姿の少女はトアの腕を引っ張り歩き始めた。
「あ、まって、靴…!」
トアが腕を引っ張り止めると、少女は一瞬何のことかわからなさそうに眉を顰めた。
「靴!履かないと裸足じゃ痛いよ!?」
慌てて自分のぐしょぬれの靴を指すと、その子もあぁ!と理解した様子だった。
ぱしゃぱしゃと水辺へかけていくと、水泳選手も真っ青の美しいフォームで泉へ再び飛び込んだ。
「あぁ…そっちに保管してるんだ…」
靴がどんな状態なのかはなんとなく察しがついた。
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