第22話 約束の泉

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吸血鬼たちにいつもの優しい笑顔はなく、張り詰めた空気に顔を引きつらせている。 予想外の展開に頭がついていかず、睨み合う両者の顔を交互に見やる。 「トア、その子は…」 リオが油断なく女の子を見つめながら聞く。 「え!?友達です!」 「とも・・・だち・・・!?」 リオの声が裏返った。 「はい!友達ができたんです!!ご、ごめんなさい!説明するのが遅くなりました!この子人間じゃないんです!だから知られても大丈夫ですよ!あと、話せないみたいなんです…だから名前とかはまだ…。」 慌てて両者の間に割って入るトアに、カナトが面白そうに付け足した。 「だぁめだ、この子いよいよ頭おかしいって。人間じゃないから大丈夫って、ふつう人間の口からは出ないでしょ」 「「…確かに」」 リオと遥希の声がが見事に被った。 「そんでもって僕たちにとって一番まずい相手だね」 そう言葉を続けながらやれやれと首を振ってカナタの腕に抱き着き頭をぐでーっともたれかからせるカナト。 「「確かに」」 続いてリオとカナタの声が被った。よく見れば隣の彼女もコクンと頷いている。 ついでにカナタはさりげなく腕を振り払ったようだ。 「一番まずい…?ちょ、ちょっと!もうなに睨んでるんですか!そんなことより聞いてください!私、友達ができたんです!女の子の!」 彼女の両肩に手を置き一歩前に推し進める。この気まずい空気をなんとかして打破しなければ。 「ね?」 彼女の顔をのぞき込めば、少しためらった後、嬉しそうに小さくコクンと頷いた。 「まじかよ…。」 リオをはじめ4人とも何故か言葉を失っているようだった。 「崖から落ちたところをこの子が助けてくれたんです」 つい勢い余って少し盛って話してしまった。でもきっとこれくらいでちょうどいいはずだ。 「え、嘘でしょ…!?」 「まさかの俺たちの命の恩人の、恩人パターンか…厄介だな…。」 ぼそっとカナタがカナトに呟いたけれど、トアはなんのことだかいまいち理解ができないまま二人を見つめている。 「そ、それでそんなターザンみたいな格好してるんだね…」 遥希がとても下手な愛想笑いをした。 「た、ターザン!?」 トアが驚いて隣の彼女を見れば、両手を口に当てて俯き震えている。 言わずもがな震えるほどに笑っていた。 よく見ればトアの服は滑り落ちたからなのか、水を浴びたからなのか、汚れて泥だらけだった。 タイツも少し破れて丸い穴が空いていた。 「編み込みにこんな立派な葉っぱ刺して帰宅だもんな」 カナタが歩み寄ってきてひょいとトアの頭のあたりから大きな緑の葉っぱをつまみ上げた。 葉っぱを投げ捨ててトアの服を叩きながら土埃を落とすカナタ。その横でせっせと遥希が床を拭いている。 そこに遠夜が家の奥から歩いてきた。これで全員が玄関に揃ったことになる。 「どちらにせよ、あなたのおかげでトアさんが無事に帰ってこれました。感謝します。」 「遠夜さん…!ご心配をおかけしました…。」 「いいんですよ。人魚の友達ができたんですね?怪我はありませんか?」 遠夜だけはニコニコと少女とトアを迎えてくれた。 彼女も遠夜の笑顔を見て少し安心したように肩を下げた。 つづく
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