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第23話 天敵
「大丈夫です!少し擦りむいたくらいで…」
身体を見回し、肘と膝を少し擦りむいているのを発見したが、トアは笑ってごまかした。
「えー!トアまた怪我したの!?この界隈で怪我できる場所ある!?ほんっとにドジなんだね僕そろそろ怒るよ!?」
ぐんぐん詰め寄ってくるカナトを避けるように家に上がった。彼女の腕も引っ張ってさりげなく家に入れた。
「カナト君、ほんとに大したことないので怒らないでください…。崖から落ちたっていうのも、ほ、ほら、が、崖にもいろいろありますし…!」
「いんや怒る。誰も怪我していいなんて許可してない。」
「は、はあ…。」
おでこがくっつきそうなくらいに至近距離でじっとりとした視線を送ってくるカナトから逃げるように視線を逸らす。
「あ、ハル兄、あれやって!」
かと思えばカナトはパッと顔を輝かせて遥希に視線を移した。
「あれって、どれ?」
「この状況であれって言ったらあれしかないでしょ?」
カナトの面倒くさそうな視線に、遥希はあぁ、と思い出したように声を上げた。
「トア、おいで?」
遥希に呼ばれてトアが2,3歩近づくと、遥希は屈んで腕の傷の近くにそっと触れた。
「動かないでね…?」
遥希のダークグリーンの瞳がキラキラと輝きを増したように見えた。
「痛いの…とんでけ…―」
その瞬間、トアの腕がじんわりと温かくなり、むずがゆいような不思議な感覚が走った。
遥希が瞳を閉じて手を放したので腕をそっとひねってみると、もうそこに傷はなかった。
隣で彼女も目を丸くしてその一部始終を見守っていた。
「・・・今のは」
「ん?俺のひ・み・つ。どう?惚れ直した?」
視線をあわせるように少し屈んでにこっとこちらを覗き込んでくる遥希にふたりして縮こまる。
「す、すごい…遥希さんも不思議な力が使えるんですね…」
「まぁね?」
少女は遥希が傷を治す様子を見て何か思うところがあったのか、トアにぴったりとくっついて警戒していたのをやめた。
まだ不安げな様子の彼女に向かってもう一度説明する。
「ね、大丈夫…この人たちはみんな優しい人たちだよ。私のこともあなたのことも絶対傷つけたりしない。」
「・・・。」
ぱっとトアの両手を取り、何かを訴えるようにじっと不思議そうに見つめ返す、澄んだ瞳。
「約束する。」
トアがにっこりと微笑みかければ、その子もつられてにっこりと笑ってくれた。
「ではどうぞ、せっかくなのでお茶でもしていってください」
「とーやさん最近簡単に家に上げすぎ…」
カナトはぼそりと呟きはしたけれど、トアの時のように露骨に嫌がったり反対したりはしなかった。
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