アドルフ王子の婚約者

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アドルフ王子の婚約者

 まだ日も高い昼下がりの午後にも関わらず、寝台はギシギシと激しく軋んでいた。  深く繋がり中をかき乱す水音と、肌が叩きつけられる音は途切れる気配はない。 「……ア、アドルフ様……もう……本当に……お願い……いっちゃうの……いっちゃうの……」  蕩けきった身体を揺すられながら、アルナは涙目で窮状を訴えた。 「アルナ、お前は少しも我慢ができないな?」  残酷な肉食獣の笑みを閃かせ、押さえつけた獲物を愉悦に満ちた瞳で見下ろす。楽し気に嗤うアドルフにアルナは取り繕うこともできなかった。 「アドルフ様……もう本当に……ああっ! ダメ! そこダメ! いや! いや! ああっ!」  必死の懇願など微塵も聞く気もないアドルフは、華奢な身体には酷に見える楔を何度も打ち込んだ。 「ああっ! やだ! いく! いっちゃう! いっちゃう! ダメ! ああっ! あっ! あああぁぁぁぁーーー!」  白い肢体を弓なりに逸らせて絶頂するアルナ。連動するようにアドルフが飲み込ませた楔が、滾るような熱を帯びぐずぐずに蕩けた粘膜に引き絞られる。  蠕動しながらきつく締め付けられる快楽に、アドルフの強固な理性も吹き飛んだ。 「アルナ……! アルナ……!」  固く引き締まった腹筋から繰り出される深く激しい律動は、果てたアルナが極めた頂から降りることを許さない。 「やぁ! やぁ! やめて! いってる……いってるの……もうできない……おかしくなる……」  ぼろぼろ涙をこぼしながら助けを求めるアルナの姿に、アドルフの口角が獰猛に吊り上がる。かわいそうなアルナ。その姿がどうしようもなく愛しくてたまらない。掬いあげるように抱きしめて、より深く刺し貫く。 「あああぁぁぁぁーーー!!」  悲鳴を上げたアルナに、アドルフが愉悦が滲む声を鼓膜に吹き込んだ。 「苦しいか? 私のアルナ。だが自業自得だ。いっていいと私は許可していない。さあ、搾り取れ。お前に全てを吐き出すまで、いつまで経っても終わらない。」 「やあぁぁぁーーーー!!」  ズンッ!と最奥まで押し込まれた熱杭に、アルナが悲鳴を上げる。絶頂したままの身体が、深すぎる快楽に痙攣した。 「あぁ……アルナ……快い……アルナ……」  掠れた美声が熱に浮かされるように囁きをこぼして、加減なくアルナを蹂躙する。自分のものに遠慮をする気など毛ほどないアドルフの律動に、アルナはただ翻弄される。 「……あ……あ……」  快楽に蕩け切ったアルナは、不随意にか細い喘ぎをこぼしていた。 「アルナ……! アルナ……!」  目前に迫った切実さに、余裕が消え去ったアドルフの咆哮が轟く。常の冷静さを失い、理性の失せた獣のように快楽に啼くアドルフに、アルナの下腹部が愉悦に引き絞られた。あのアドルフにそれほどの快楽を与えているのは自分の身体。そう思った途端、ぞくぞくと脊髄に快楽が走り抜けていく。  快楽に呼応してアルナの身体が、もう無理だと思っていたその先に向かいだす。 「……うっ……! ああっ……アルナ……!!」  卑猥にうねりだしたアルナの蜜壺に絡みつかれ、アドルフが固く引き締まった腹筋を震わせた。汗だくの身体から筋肉の隆起に沿って汗が伝う。アルナの細い身体をきつく抱きしめ、止められなくなった律動を繰り返す。 「……アルナッ!!」 「あああっぁぁぁ!!」    堪えきれなくなったアドルフが、暴発するようにアルナの最奥に無遠慮に白濁を叩きつけた。絶頂を共にした震える身体を抱きしめる。  あられもなく愛液を溢れさせ、摺立て続けられた粘膜が腫れあがった蜜壺。宥めるようにゆっくりと抜き差しを繰り返しながら、最後の一滴まで絞り出してからやっとアルナを解放した。   「……アルナ、王妃教育を受けているそうだな?」  ぐったりと身を投げ出しているアルナを、満足げに見下ろしながらアドルフが髪を弄ぶ。薄っすらと重い瞼をこじ開けながら、まどろむようにアルナは答えた。 「……はい……これまでの、遅れを取り戻さなくては……なりませんもの……」 「別に必要ない。」 「そんなわけには、参りません……」  もう逃げられないと覚悟を決めたアルナは、生来の真面目さで王妃教育を自ら願い出ていた。しょっちゅうアドルフがこうして邪魔をするので、進捗は良好とは言えなかった。  くるくると金糸の髪を弄ぶアドルフは、眠りに落ちてしまいそうなアルナを見つめる。 「それならなぜ、あれほど私との婚約を嫌った?」  こうしてちゃんと努力をする女だ。王太子の婚約者と決まれば、そうと相応しく努力をするはずが想像以上にアルナは抵抗を見せた。 「……アドルフ様に……選ばれたくない……方など、おりませんわ……」 「お前は選ばれたくないようだったが?」  アルナは王太子の婚約者選びの茶会で、会場に着くやいなや人がこない草むらに逃げ込んでいた。  送り付けた求婚状にも、健康上の理由だとかで頷かせるまでに半年かかった。  婚約が結ばれても定期交流の茶会には遅刻をし、下品で派手な宝飾やドレスで登場。時には仮病を使ってキャンセル。その時間に街で練り歩く姿も見せたりしていた。 「なぜあれほど忌避した?」  見当はずれな努力をするアルナは、毛を逆立てて警戒する懐かない子猫のようで、非常に面白かったので好きにさせていた。  どのみちアルナ・リンツである限りアドルフのものであることは変わらない。それに気付かず無駄な抵抗を必死に頑張るアルナを、アドルフは楽しんでいた。  仕上げとばかりに女をあてがおうとしたので、流石に思い知らせることにしたが、未だにそれほど婚約を嫌った理由がはっきりしない。 「別に……私でなくても……いいと思ったのです。特に力がある……家門でもありませんし。私より望んでアドルフ様の……妻になりたい方は……たくさんいました……」 「私が選んだのはお前だ。」 「ですが、私は田舎の領地育ち……です……。  8歳からずっと……勉強が終われば……草むらに寝転んで、森の果実を摘んで……。  そんなふうに過ごせなくなる王妃には……その座を望む……相応の令嬢がなるべきだと……」 「そうか。」 「……はい……アドルフ様が……いやだったわけではなく……わた、しは……」 「……アルナ?」  覗き込んだアルナはすやすやと寝息を立てていた。あどけない寝顔にアドルフは苦笑した。 「お前は婚約者になってさえ、見当違いな努力を頑張るのだな。」    安らかな寝顔を見つめ、額に口づけを落とすと身支度を整えた。 「アルナ。お前は身をもって思い知らせねば理解しない。」  困ったものだと呟いて、アドルフは頬にかかった髪を払ってやる。  どうやらアドルフ・フォン・クライサスの婚約者としてどうあるべきか、その身を持って教え込む必要がある。アドルフはニヤリと笑みを浮かべながら、執務室へ向かうべく寝室を後にした。 ※※※※※ 「殿下。」  回廊を長い脚で歩き去ろうとするアドルフに、紳士然とした男が声をかけた。  チラリと視線を流しただけで、止まることも応えることもないアドルフに、男は慌てて歩を早めた。 「殿下。我が家門よりの贈り物はお手元に届きましたかな? 100年に一度採れるかどうかの最上のサファイアです。」 「…………」 「……極上のサファイアは殿下の手元にあってこそ輝きます。」 「…………」 「我が家門には贈らせて頂いた、()()()()()()()()()()()()()もございます。ご一緒に殿下のお手元に置いて頂ければ、至上の喜びにございます。」  意味深に口元に笑みを浮かべた男に、アドルフはようやく立ち止まった。期待するように返答を待つ男は、逆鱗に触れたことに気付けなかった。アドルフが酷薄に口元を吊り上げる。 「ドニノフ公爵。そのサファイアは鑑定したのか?」 「は? え? も、もちろんでございます。殿下にお贈りするものに……」 「ならば持ち帰って再度鑑定するが良い。貴様は簡単な帳簿さえ、つけ間違えるようだからな。」  アドルフの冷ややかな声に、ドニノフ公爵は顔色を変えた。 「単純な計算さえ()()()()()()間違えている者が、まともに鑑定手順を踏めるとは思えない。  王家派遣の税理士をつけてやる。その最上とやらのゴミも一緒に持ち帰り、再度鑑定するがよかろう。」 「あっ? えっ? で、殿下……?」 「ついでに家門の秘宝も鑑定しろ。アルナ・リンツと判明したらなら献上するがいい。  私の手元に相応しく、側を許すのはその秘宝のみ。その他のゴミを押し付けようなど夢にも思うな?」  そのまま獰猛な笑みを閃かせ、踵を返したアドルフは歩き去りながら手を振った。  どこからともなく影が音もなく現れ、呆然とただ取り残されたドニノフ公爵を静かに拘束した。   ※※※※※ 「父上、司法長官のドニノフ公爵は更迭しました。」 「……しました。って……アドルフ。深刻な金額ではないのだ。後任を決めるまでは現状維持と言っただろう?」 「目障りなので。」  ドニノフ公爵の脱税の証拠を差し出すアドルフに、影から理由を聞いただろう父王はため息をついてみせた。 「……アドルフ……後任が決まっていないのだ。司法を握らせ得る者は多くはない。」 「スクルト・リンツ。」  アドルフがするりと出した名に、父親は眉を跳ね上げた。 「……ふむ。スクルトか……」  薄く笑みをたたえたまま、腕を組んでそれ以外の選択肢はないのに、じっと考え込む父親を見守る。  アルナの父スクルトは、そそくさと王宮を辞して、領地に引っ込むくらい野心がない。  王家からの婚約打診も、娘の意思を尊重して頑張って渋り続ける程度には、アルナを溺愛している。  そのアルナがアドルフに嫁ぐ。渋々でも誠実に忠実に仕事をするだろう。スクルトなら武器ができたではなく、人質を取られたと考える。 「……お前も王都内なら里帰りを許してやるだろうしな。それならばスクルトにも悪い話ではない。」  ようやく満足げな笑みを浮かべて顔を上げた父王は、アドルフを見ると眉尻を下げた。 「……あー……アドルフ? たまには里帰りくらいさせてやりなさい……」 「…………」  薄く嗤って答えないアドルフに、父王は深くため息をついた。 「……まだ根に持っているのか……?」 「いいえ?」    意図も確認せず、尻上がりの返答したアドルフに、王は肩を落とした。 「……根に持ってない者が、そんな返事をするものか。本当にお前は、一切の妥協もしないな……謝ったじゃないか……」  眉尻を下げ拗ねたように零す父王は、顔を上げると言い聞かせるように声を張った。 「婚約者は王家主催の茶会で選ぶ。それが伝統なんだ。」 「ええ。」 「……私もスクルトも悪気はなかった。アルナ嬢は8歳でお前は11歳だっただろう? 成人までに気持ちが……」  王はアドルフの表情に、しょんぼりと語気を弱めた。 「……変わることはなかった、な……」 「何度、申し上げたでしょうね?」 「…………」  とうとう押し黙った父親を、アドルフは睥睨した。  アドルフが11歳の時に、スクルトは王宮にアルナを連れて挨拶に来た。同僚達の引き止めを振り払って憧れの田舎暮らしをするために。 「おかげでアルナは、婚約者選びの茶会で見初められた。と未だに勘違いしています。」  あの時のアルナは、スクルトの足元に隠れていた。そっと顔を覗かせアドルフと目が合うと、大きな緑の瞳を驚いたように見開いた。  スクルトの足元にまた隠れる前に、照れたように笑ったアルナ。その瞬間、アドルフは自分のものにすると決めた。  伝統と年齢を理由に、父もスクルトも婚約を認めなかったが。   「とうの昔に領地で王妃教育を終えていることも知らない。一体なぜでしょうね?」    婚約させないならと、父とスクルトに王家からの教師陣の派遣を了承させた。万が一にもおかしな虫をつけさせないための監視兼教育係。  アルナが18になるまで待って、伝統とやらの茶会に呼び寄せた。  アルナは会場に着くとすぐさま隠れたが、なんの意味もなかった。すでにアドルフはアルナを見初めていたのだから。  獰猛に微笑む息子をチラチラと伺いながら、国王は頷いた。 「そ、それは、スクルトが悪いな! 事情は伝えておくべきだった!」  子供の頃の気持ちはすぐ変わると、婚約を真剣に取り合わなかった父とスクルト。  王妃教育は無駄にならないと受け入れたが、アルナに説明しなかったのは、まさか本当にアドルフが心変わりをしないと思ってはいなかったからだった。  そのせいで二人の父は、アドルフにことあるごとに、持ち出されては散々当てこすられていた。  もういい加減許してほしいと、機嫌を伺うように見つめてくる父に、アドルフはニヤリと笑みを浮かべた。   「……そろそろ、水に流そうと思います。」    ぱっと目を輝かせた父親に、アドルフは準備していた文書を差し出した。恐る恐る受け取った父親は、やがて呆然と顔を上げた。 「アドルフ……これは……」 「僻地からの移転。それに伴い交通網の整備。整理された動線で経済は活発化。試算表はそちらに。」 「いや、経済効果は高い。実現すべきだが、予算も膨大……いくらなんでも3か月は無理だ。もっと時間をかけて……」 「財源は私の私財を。間に合うだけの労力は金で贖える。」 「そうだろうが、より費用が……」 「父上? 玉璽を。」 「…………」  無言の抵抗を見せる父王は、アドルフの吊り上がった口角を見つめ諦めた。のろのろと玉璽を押下し、いやいやアドルフに差し出した。アドルフは満足そうに昂然と笑んで受け取った。 「これで本当に水に流すのだな? ……もうパパを許してくれるんだよね?」 「はい。」  笑みを浮かべて頷くと、王の仮面が剥がれた父親は嬉しそうに顔を輝かせた。アドルフが持つ渡したばかりの許可証を見つめ、おずおずと口を開いた。 「……西区はどうするんだい?」 「有効活用します。」 「そう……」  笑顔の圧に押されてそれ以上何も聞けず、機嫌よく退室していくアドルフを見送った。扉が閉まるとほっと息を吐き出す。  森林が立ちふさがる立地のせいで、発展から取り残され気味の王都西区。その西区を丸ごと街道沿いの、無駄に広い痩せた農地へ移転する計画書。メリットしかない計画でも、期間が気になった。  寂れてはいても王都の一角だ。たった3か月で移転させるのは無謀としか思えなかった。急ぐ理由もないのに、大量に人員を動員するようだった。  移転先を確保したそばから、退去跡地を更地にする。アドルフの私財で全てを贖って。 「そこまでして、なにするの……?」  もうとっくに出て行った息子に向かって、国王は小さく呟いた。  アドルフの私財なら、移転計画費用を出した挙句に、西区を丸々買い取ることも大した痛手ではない。  どうやってか他国の有名鉱山やめぼしい商団に、アドルフは巧妙に正体を隠して深く食い込んでいる。  その伝手を時折他国の外交に対して()()()()()()活用したりもしている。とても助かってはいる。でも。 「……アドルフ、パパお腹痛い……」  美しく非常に優秀な自慢の息子。その分とんでもなく扱いにくい。そんな息子が意味のない行動をするわけがない。  今度は何をするのか。国王は胃をさすりながら、ため息を吐き出した。   ※※※※※   「機嫌がいいな、アルナ。」 「ふふふ。実は先生に褒めていただいたのです。理解が早いって。」 「そうだろうな。」  二回目だからな。ご機嫌でにこにこするアルナを見下ろし、アドルフが緩く口角を上げた。アルナはすでに終了している教育だと、いつ気付くだろうか。  一生懸命無駄な努力をするアルナに、アドルフは笑みを浮かべた。 「アルナ。褒美をやろう。」 「!!!」  アドルフのいう褒美は大抵アルナにとっての褒美ではない。身を持って思い知っているアルナは、警戒するように身を縮めた。その様子を面白そうに観察して、アドルフは立ち上がった。 「アドルフ様! まだ日が高いうちからは……!!」 「ついて来い。」  さっと庇うようにして身を引いたアルナの予想に反して、アドルフはスタスタと扉に向かって歩きだした。自分の恥ずかしい勘違いに、アルナの顔がじわじわと熱くなる。 「どうした?」 「あ……いえ……」  自分が想像したことを気付かれないように、慌ててアドルフの隣に駆け寄った。 「どちらに向かうのですか?」 「外だ。」  誤魔化すようにアドルフを見上げて問いかけるアルナに、アドルフはいつも通り平坦に答えた。どうやら勘違いは気付かれていなかったと、安堵しながらアルナは首を傾げた。 「外、ですか?」 「そうだ。それとも先に、アルナの期待に応えてやろうか?」  寝台でだけ見せる野生の獣のような笑みを浮かべ、アドルフはからかうようにアルナを覗き込む。 「なっ!! き、期待なんてしてません!!」  気付かれていないと一度は安堵した分、本当は分かられていたことが余計に恥ずかしかった。真っ赤になったアルナに、アドルフは嫣然と艶めいた笑みを浮かべた。凄絶な色気ともに羞恥に俯くアルナに囁く。 「どうしたい? アルナ……」  低い美声にぞくりと背筋を震わせたアルナは、急いで扉に飛びついた。 「は、早く行きましょう!! 外なんですよね!! 早く!! 今すぐ!!」  慌てふためいて廊下に飛び出したアルナに、アドルフはくつくつ笑いながら歩き出した。からかわれたのだと気付いたアルナは、真っ赤になってぷりぷりしながらアドルフの後をついて行った。 ーーーーー      ふわりと吹き抜ける風が、足元の柔らかな草をさわさわと揺らす。  目的地に着いたアドルフが、アルナに振り返る。驚愕に目を見開いているアルナに、アドルフは昂然と顎を逸し、ニヤリと口角を吊り上げた。 「アルナ、好きなだけ転がれ。」  声もなく呆然としていたアルナが、アドルフの声に覚醒した。 「こ、転がれって……アドルフ様……」    王太子宮と王太子妃宮を繋ぐ庭園から先の景色が変わっていた。 「……西区は……?」 「移転した。」 「……これは……?」 「草原だ。」  何言ってんの?まん丸に目を見開き口を開けたアルナが、言葉より如実に顔にはっきりと書いてアドルフを見上げた。 「……くっ! ははは!」  その表情にアドルフが、こらえきれずに吹き出した。遠巻きに護衛していた騎士が青褪めた。アドルフの笑い声など聞いたことがなかった。  アドルフは拳を唇に当てたまま、手を振った。護衛はすぐさま気配さえ押し殺して静かに下がった。 「来い。」  アルナの肩に手を回し、まだ衝撃を表情に残しているアルナを、作りたての草原に連れ出した。   「アルナ、私の婚約者の条件はなんだ?」 「え? ア、アルナ・リンツであること……?」  呆然と本当に何もなく草原が広がっているのを眺める。かつて西区だったはずの場所を、奇妙な既視感を覚えながらアルナは答えた。  一本だけ立っている立派な木の下に腰を落ち着けて、アドルフは不敵に笑ってみせた。 「正解だ。分かっていて何故ふさわしく振る舞わない?」 「ふさわしく、ですか? ……至らないかもしれませんが、王妃教育だって……」 「必要ない。言ったはずだが?」 「え?」  きょとんと目を見開くアルナに、アドルフはゆっくりと近づいた。 「したいことをしろ。些細なことも私に望め。」  目を見開くアルナの顎を引き寄せ、近づけた唇を掠めるように囁いた。 「お前は私に全てを捧げる。その対価に私はお前に全てを与えてやる。望むものを望むだけ。求めるものを求めるだけ。」  何を望み求めようとも、必ずその全てを実現してやろう。足りないなら増やせばいい、無いのなら作ればいい。 「……アドルフ、様……」  柔らかい草原に倒されたアルナの鼻腔に、懐かしい青草の香りが広がる。リンツ領の草原に似ているのだとアルナは気付いた。  のしかかって来るアドルフから、反射的に逃れようとアルナは身を捩った。 「アドルフ様……こんなところで……!!」  呆気なく取り押さえられ、アルナは必死に抵抗した。アドルフを押しのけようとする腕を掴みあげ、組み伏せる。 「心配するな。ここには私とお前しか立ち入れない。安心して転げまわれ。」 「そ、そういうことでは……!! あぁっ……!」  侵入してきた指がそこを掠め、アルナは身を跳ね上げた。もうとっくに暴かれ、知り尽くされた中をかき回され、アルナは上がる嬌声を止められなかった。 「アルナ。婚約者として、のちの王妃として相応しく振る舞えるな?」 「あっ! ああっ! あん! ア、アドルフ様……! 待って! 私は……」    中をかき回す指が、そこを強く押し上げた。 「ああっ!! だめ! だめ! あぁ……!!」 「不正解だ。アルナ。お前が返していい答えは了承だけだ。」 「あ……あ………」  あっけなく絶頂した身体を小さく痙攣させるアルナを見下ろし、不遜に微笑みながら引き抜いた指の代わりに熱杭を蜜口にあてがう。ぞくりと背筋が粟立ち、アルナは悲鳴に似た声を上げた。 「やぁ……! アドルフ……様……」  甘く蕩けた抗議の声は当然のごとく無視され、アドルフはアルナの最奥を一気に挿し貫いた。熱く猛った肉杭は、潤んだ粘膜を容赦なくすりあげた。 「あああぁぁぁーーー!!」  弓なりに仰け反った身体を支えてやりながら、肉壁を抉るように擦り立てる。 「だめ! だめ! あぁっ! ああっ!」  もう取り返しがつかないほど、身体を蕩けさせていても抵抗を口にするアルナの痴態を、アドルフは愉悦を滲ませながら眺めた。 「アルナ。いつどこでも私を受け入れろと教えただろう?」 「いや! いや! 外なの! 外なのに!!」 「だからなんだ? 私を締め付けて離さないのはお前だ。」 「ちが……! ああっ!!」  深く埋めた熱杭に、繋がったそこがぶちゅりと音を響かせる。翻ったアルナの声に煽られながら、アドルフは捕えた獲物を貪った。何があっても逃がさない。 「心配するな、アルナ。お前がきちんと覚えるまで、骨の髄まで教え込んでやる。」 「やぁ! ああっ!! ふぁ……」  華奢な身体を揺さぶりながら、アドルフはうっそりと嗤った。  髪の先から足の先で、その全てがアドルフのものだと自覚するまで。  その心を余すところなくアドルフに捧げるまで。  呼吸も生死もその全てがアドルフのものであることを理解するまで。 「愛しいアルナ。お前は未来永劫私のものだ。」 「あぁ……アドルフ様……アドルフ様……」  深く突き刺しながら、快楽に溺れるアルナの耳朶に囁きかける。 「アルナ、私に望め。求めろ。その全てを叶え、与えてやろう。」  アドルフ・フォン・クライサスの婚約者。それは全てが与えられ全てが許される者であるということ。王妃教育など必要ない。アルナ・リンツとしての振る舞いが、そのまま王妃として相応しい振る舞いになるのだから。   愛しいアルナ。私に全てを捧げ、私の傍らに在り続けろ。それがお前に課された唯一の義務だ。私はお前に全てを与えよう。お前が望むまま、求めるだけ。  受け入れさせた楔で残酷なほど深く抉る。ガクガクと身を震わせるアルナを、アドルフは満足げに見下ろした。  思い知れ、アルナ。これがお前が手に入れたものだ。この先際限なく与え続けられるものだ。  アルナ・リンツである限り、全てが与えられるのだと理解しろ。 ※※※※※  公開遅くなって申し訳ありません。  この度一迅社、ゼロサムコミックよりアンソロジーコミック 「鬼畜王子に無理やり調教されておかしくなりそうです……!」 にて、「アドルフ王子の教育的指導」がコミカライズとなりました。  作画担当は「悪役令嬢と鬼畜騎士」の生還先生です。  お待たせしてしまい本当にすいません。とりあえずアドルフシリーズは完結。リクエストが来たらしれっと追加するかもしれません。  クズ男が逃がした魚も告知に合わせて公開を開始しました。発売日までもう少し。それまで原作と共に挿絵付きで楽しんでいただけたら幸いです。 Twitter用URL↓ https://tieupnovels.com/tieups/1818 たいあっぷだけの特典SSあります。R18表示は必須です。 ※表紙の使用は出版社、原作の継続掲載は出版社、運営サイト様に確認済みです
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