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翌朝、ニッケルとアースキンは局長室で落ち合った。情報局で徹夜対応に追われたアースキンの目は充血し、頭皮は脂でぎっとりしている。
「……大将、あんたもよく眠れなかったみたいだな」
「さっさと片付けよう」
ニッケルも血走った目で言った。結局、一睡もできずに夜を明かしていた。
「まず侵入者の女は、晩餐会の客に混じって広間にいた」
アースキンは、持参のノートPCで監視カメラの映像を再生した。きらびやかな広間の一角、来賓に紛れた女が映る。自分の姿が写り込んでいないのを確認し、ニッケルは内心安堵した。
「大統領のスピーチが終わった後、女は何らかの理由で広間を出た。そこで、偶然行き合わせた警備兵に見とがめられたらしい」
アースキンは映像を切り替えた。玄関ホールの監視カメラには、端のほうに警備兵だけが映っている。
「ここの監視カメラには気づいてたみたいだ。配置を工夫せんとな」
アースキンは映像を早送りした。
「二分ほど話した後、他の警備兵が加わって女は逃げた。驚くべきことに、女の足は義足だった。パラ陸上の選手が使うような代物だ。折りたたまれてブーツに格納されていたらしく、脱ぎ捨てられたブーツが見つかっている」
「パラ陸上の選手なのか?」
「違うだろうな、当然。招待客リストにも載ってない。女は、その足で警備兵の頭に蹴りを入れた。一命はとりとめたが、頭蓋骨が陥没したらしい」
「ふーむ」
ニッケルはうなった。イーディスが女の義足をどうしたかが急に気になりだした。
「で、女は中庭に出た」
アースキンは中庭のカメラに切り替えた。暗がりの中を、小柄な影が一瞬で駆け抜ける。数秒遅れで画面内に入ってきた男たちが、その場で止まるとクロスボウを構えて射た。
「狙撃者は女の上半身を射たと証言している。血痕も見つかった。しかし、肝心の女は消えた」
アースキンはここで、PCから顔を上げた。
「で、軍人が代わりに見つけたのがあんただったわけだが……」
ニッケルが返事をする前に、局長室のドアが開いた。顔を上げたアースキンが口をあんぐりと開く。入って来たのは外務省、通称『戦争省』のヴォーン将軍だった。
「今、昨夜の話をしていたところだ。何か用か?」
ニッケルは平静を装って言った。
「貴様に確認することがある」
ヴォーンの静かな口調に、アースキンは逆に寒気を覚えた。老将軍の後からさらに三人の兵士が入室する。
「おれに確認? 分析官は外すか?」
「いや、そのままでいい」
ヴォーンに即答され、立ち上がりかけていたアースキンはゆっくり腰を下ろした。
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