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「ニッケル。現場に居合わせたそうだな」
「正確には居合わせなかった」ニッケルは言い返した。
「おれが到着したときには、侵入者はすでに逃走していたからな」
「あるいは、どこかに隠れていたかだ。奴は手傷を負い、身動き取れなくなっていた可能性もある」
「矢には毒が塗ってあったしな!」
と言いたいのを、ニッケルはぐっとこらえた。
「もちろん、その可能性はある。要件はそれだけか?」
将軍はニッケルを見つめると、冷ややかな声で言った。
「教えてもらおう。奴をどこに隠した?」
「何だって?」
アースキンが顔をひきつらせて叫ぶ。ニッケルは片眉を吊り上げるにとどめたが、頭の中ではコンポスト周辺の痕跡をきちんと消したかどうか、必死に思い出そうとしていた。
ヴォーンは前に進み出て、ソファに座ったままのニッケルを見下ろした。
「奴の居場所を教えろ……もし知っているのならば」
「知るはずがない。見てもいないのに」
ニッケルは努力して、ヴォーンの薄いブルーの瞳を見返した。
「貴様があの場にいたというのが解せん。裏で糸を引く方を好む奴だ」
「お前たちを手伝ってやろうと思ったんだがな」
ニッケルの返答に、兵士の一人が敵愾心剥きだしで言った。
「ニッケル局長、監視カメラの映像は押収させていただく」
「いいだろう」
ニッケルは意識してヴォーンの顔から視線を外すと、アースキンにうなずきかけた。アースキンの声はひっくり返ったようになっていた。
「スぅ、ストレージへのアクセス権を付与させていただきますので、どなたかメールアドレスを教えてもらえますか?」
兵士たちは、ものすごい形相でアースキンを睨んだ。
「……HDDでも何でもいいから、ハードに入れて渡してやれ」
ニッケルが助け舟を出すと、アースキンは部屋を飛び出していった。兵士の一人が後に続く。その間も、ヴォーンはニッケルから目を離さなかった。
「ニッケル、おれは貴様が気に食わん」ヴォーンが静かに言った。
「貴様がおれを侮っていることも知っている。これまでは大統領に免じて大目に見てきたが……。もし今回のことに貴様が関わっているのであれば、それはおれを虚仮にするだけのことではないぞ」
ニッケルはうなずいた。
「ああ、もちろんだ」
「よく考えろ。ペテン師だとしても、売国奴にはなるなよ」
そう言うと、ヴォーンは部下を従えて出ていった。
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