3.ジョン・ニッケルの隠蔽

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 ニッケルは立ち上がろうとしたが、足に力が入らずまた座り込んだ。  数分後、戻ってきたアースキンはドアの隙間から室内の様子をうかがい、軍人がいないことを確認すると大仰に息を吐いた。 「無事だったか、良かった……! 一応、これを取ってきたんだが」  ズボンベルトに挟んで隠し持ってきたらしい胡椒スプレーを見て、ニッケルは顔をしかめた。 「お前、死にたいらしいな。それはそうと、やつらはどうやってここに入った? このフロアへ立ち入る権限はないはずだ」 「出勤してきた局員を脅して共連れ(ピギーバック)したらしい。うちは、システム上は難攻不落の砦だが、局員個人はチョウチョのサナギ並みに軟弱だからなあ」  アースキンはニッケルのはす向かいに勢いよく座り込んだ。悲鳴を上げるソファにすっかり体を預け、脱力する。 「怖かった……! おれは、この場で殺されるかと思った。徹夜明けの汗臭い格好で! 昨日と同じパンツをはいたまま! あんたはさすがだな。あの状況で平然と嘘をつき通せるなんて」 「嘘だと? 何が嘘だ」  ニッケルがそらとぼけると、アースキンは半眼になった。 「ニッケル、昨晩あんたは軍曹と話した後、官邸に戻らずトマスに連絡して車をまわさせたな。帰宅後、あんたのお抱え運転手が再度屋敷のゲートを出入りして、誰かを送り迎えしている。たぶんなじみの医者だろう。さらに、あんたのところのハウスキーパーが今朝、食品配送業者に追加発注をかけてる。果物の缶詰に米一キロ」 「……なるほど」  ニッケルは立ち上がるとウォーク・イン・クローゼットに入り、毒矢の入った袋を持って出てきた。 「毒が塗ってあるらしい。成分を調べたあとで処分しろ。関係者はできるだけ少なくな」 「わかった」袋を受け取るアースキンの手は震えていた。 「なあ、こんなことをして大丈夫か?」 「さあな」  ニッケルはやけくそ気味に言った。
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