1.ジョン・ニッケルの奇襲

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 深夜の首都・アーモロートを走り抜けたセダンは、建国記念公園を回り込んでゆるやかな坂道を上った。小高い丘の上、市街地を見下ろすようにして大統領官邸は建っている。門前では警備兵が番をしていたが、勝手知ったるニッケルは手を振ってさっさと建物内に入った。ブリーフケースを持ったトマスが後に続く。  ミーティング会場のサンルームでは、すでに五人の男がテーブルを囲んでいた。外務省長官の矍鑠(かくしゃく)たるヴォーン将軍は、入室したニッケル兄弟を見てうなった。 「やっと来たか!」  その地響きのような声に、半分眠りかけていたタッカー副大統領が身じろぎする。彼はずり落ちかけていた眼鏡を直し、陰気な声でとがめた。 「ニッケル、君が最後に来るようでは困るぞ。急に招集をかけておいて、」 「おはよう、諸君!」  ニッケルはタッカーの小言を遮って快活に言った。 「おふぁよう……」  統計省長官のアフマドがあくびまじりに挨拶を返す。アフマドは同時にテーブルの下で足を伸ばし、ヴォーンの隣で舟を漕いでいる文化省長官のフリンを軽く蹴った。 「え? あ、ううん。起きてるよ」  フリンは目をしょぼしょぼさせながら口もとをぬぐった。 「おはようございます、閣下」 「おはよう、ニッケル」  ハリー・グレグソン、ユートピア建国の父にして二十六年間在位中の大統領は、寝間着にナイトガウン、足元はルームシューズという格好でうなずいた。 「メンバーは揃っているな。では、さっそく始めよう」  国家の重要人物たちを前に、ニッケルは立ったまま話し始めた。 「議題は五つある。一つめ、戦車の増設配置についてだが、却下する。今どき、戦車なんか増やしても金の無駄だ」 「なんだと?」ヴォーン将軍が額に青筋を立てた。 「我が国はイドアーに隣接している。地上戦の重要性を軽視するか!」 「地上戦だろうが空中戦だろうが、足りない分はドローンを使うさ」  ニッケルはばっさり切り捨て、反論を待たずに話し続けた。 「二つめ、最近刑務所の入所者が増えすぎて財政を圧迫している。フリン、さっさと片付けろ。二割ほどな」  再び眠りかけていたフリンは、名前を呼ばれて生返事をした。 「へ? 何だって? うん、わかった、わかった」 「頼むぞ、後がつかえてるんだ。では三つめ」  タッカー副大統領が手を挙げて何か言いかけたが、ニッケルは無視した。 「先日見つかった建国記念公園内の地雷撤去についてだが、予算が足りん。しばらくは該当地域に柵を立てて立ち入り禁止にするしかないな」 「それは残念だ。巻き込まれる人がいないといいが……」  大統領はため息をついた。
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