3.ジョン・ニッケルの隠蔽

7/7
前へ
/122ページ
次へ
 会議ではまず軍曹が、昨晩の経緯について説明した。内容は昨日から断続的に報告されてきた事項の焼き直しであり、グレゴリーが「なんてこった!」とつぶやく以外に口を挟む者はいなかった。 「以上がこれまでの経緯です」  軍曹が下がると、大統領はニッケルに目を向けた。 「さて、次はニッケルから話を聞こう。監視カメラの映像から異常に気づいて中庭に入ったそうだな」 「そうです。カメラ画像を監視していた局員から連絡があり、様子を見に行きました」  ここで、ニッケルはしおらしい態度をとっておくことにした。 「しかしまあ、少々軽率でした。警備兵と連携していれば、今ごろ侵入者を捕らえられていたかも知れないのに」  大統領はうなずいた。 「そうだな。それに、お前自身が襲われる可能性もあった。聞けばかなり訓練された相手だったそうじゃないか」 「でも、蹴る以外の攻撃をしなかったということは、侵入者は他に武器を持っていなかったのかもしれないな」  文化省のフリンが口を挟み、一同は彼が同席していたことを思い出した。 「奴の目的は、暗殺やテロでは無かったということか」 「じゃあ何が目的だったんだろう。窃盗とか?」  統計省のアフマドが首をかしげる。ヴォーンは苛立たし気に言った。 「武器を持っていなかったとは言い切れまい。出す時間が無かっただけかもしれん」  ニッケルはつい揚げ足を取った。 「監視カメラの解析によると、初めに声をかけた警備兵とは二分近く立ち話をしていたようだがな」 「その兵士は、頭蓋骨陥没の大けがを負ったんだぞ!」  ヴォーンの声が怒りを帯び、その場が一気に緊張する。大統領がため息をついて割り込んだ。 「それで、どうする。奴が再び襲って来る可能性はあるのか? 国民に警戒を呼び掛ける必要は?」 「この件は機密扱いとします」ニッケルが返事をした。 「来賓の多くはイドアーの人間だった。敵国とまでは言わないが、こちらの弱みにつけ込みたがっている連中です。侵入者を許したことを公表すれば、要らない非難や侮りを受けるだけでしょう。国民にしても、今の情報量では不安を煽るだけだ」 「いたしかたないか……」 「ご安心ください、必ず捕まえて御覧に入れます!」  頭を抱える大統領に、軍曹が語気荒く宣言する。ニッケルも言葉をついだ。 「情報局としても、各種交通機関に奴を指名手配犯として通達しています。また、宿泊施設や貸家のデータを捜索中です。新しい情報が入り次第、連絡します」  淡々と口を動かしつつ、ニッケルは頭の中でこれからのことを考えた。とにかく、まずはあの女の目的を聞き出さなくてはなるまい。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加