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「四つめ。今夜の晩餐会の招待客について思想、趣味、家族構成からこっそり書いている小説サイトのアカウントまで調べ上げたリストがここにある」
控えていたトマスがブリーフケースから紙ばさみを出し、大統領に手渡す。大統領は中身をぱらぱらとめくった。
「黒塗り箇所がずいぶん多いな。何が書かれている?」
「それは秘密です」
大統領は目をすがめて何ページかめくった後、諦めて紙ばさみを閉じた。
「さて、これで五つめか? ではさっさと済ませてしまおう」
そう言うと、ニッケルは悪魔のような笑みを浮かべた。
「先月、我が国の領海内でだ捕した環境保護団体の連中だが、水族館のオルカたちに食わせてやることになった。議題は以上。では諸君、甘美なる二度寝を愉しみたまえ!」
ニッケル兄弟は、入って来た時と同じくらい唐突に出て行った。アフマドが右手首の時計を確認すると、ミーティングは始まってからきっかり五分で終了していた。
「こんなもののどこが会議だ! 奴の独演会じゃないか!」
ヴォーンがふさふさした白髪を逆立て怒り出す。七十歳を超えた老将軍の怒気がサンルームに充満する気配を察知して、アフマドは慌てて立ち上がった。
「では、私はこれで」
「あ、私も失礼するよ」
フリンが退出するアフマドの後を追ってきた。フリンはヴォーンとほぼ同年代だが、こちらは年相応に老いている。
「さっきの会議内容、あとで教えてくれるか? よく聞いていなかったもので」
しゃあしゃあと言うフリンに、アフマドは苦笑した。
「無理ないですよ。眠いし、ヴォーンは怒るし。ニッケルが後で議事録を送ってくるでしょう」
「それがニッケルの狙いなんだろうな」
フリンは大あくびをした。
サンルームでは、グレグソン大統領が疲れた顔で立ち上がった。
「それではニッケルの言うとおり、ベッドに戻るとするか」
その姿を、ヴォーンが恨めしそうに見る。
「ハリー、あいつをどうにかすべきだ!」
「そう言ってもなあ、エイブラム……」大統領は頬をかいた。
「ニッケルの仕事ぶりには助けられることも多いからな。ああ見えて、愛国心の持ち主でもあるし」
「さあ、どうだかな」
将軍は低い声で言うと、荒々しい足取りで出て行った。
「やれやれ……」
大統領は首を振り、すっかり存在感を失っていたタッカーに気づいた。
「副大統領、君も帰りたまえ」
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