最悪な男

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(…おぉ…) 細身の黒いパンツに、飾り気の無い白いシャツの男は暗い所で見ても俗に言う…イケメンだった。 高い背と広い肩幅の上に小さい顔が乗っている。 比率的に可笑しい、卑怯だと思うレベルだ。 顔をしっかり見てないけども、このフォルムだけでモテそうな匂いがする。 …言ってた事は最低だけども。 男が少し猫背気味にうつ向けていた顔を上げた。 (あぁ…残念、顔までイケメンだわ) めちゃめちゃ残念なパーツがひとつでもあれば、心の中で笑ってやったのにと、那月は彼と目を合わせた。 「…どうも」 男がボソリと、申し訳程度の会釈を寄越した。 「…こんばんは」 そのままドアを潜るものだと思っていた男が、胸ポケットから煙草を出して火をつけた。 …どんな神経してるんだ。 クピっとコーヒーを飲み込み、那月は男を観察した。 切れ長の二重の目としっかりした鼻筋…唇も形良く収まっている。 無駄に色気のある顔だ。 男らしさの中に、何かこう女が嫉妬するセクシーさがある。 「…で、どう?濡れた?」 「…は?」 那月の視線を感じていたのか、男が不意に顔を上げこちらを見た。 「…最後まで聞いてたんでしょ?…欲求不満?」 「…モゲればいいのに」 どこがとは言わないけど。 「くくっ、そりゃあどうも…失礼しました」 ドアの横の壁に寄りかかり、男が那月の暴言もどこ吹く風で煙を吐き出す。 「占い師さん?」 「そうですけど?」 「…楽しい?」 「何がですか」 ニヤリと笑った男がやっぱりムカつく程様になった仕草で小首を傾げた。 「嘘八百並べて金貰うの…楽しい?」 「…ありもしない言葉並べて心を動かすのは…音楽も同じでしょ?…不確かでも力を貸す事に対価を貰ってるの」 長めの前髪から覗く瞳が、へぇと瞬きをした。 「…アンタ、面白いね」 「…どうも」 素っ気ないが、あんたはクソだねと返さなかっただけ感謝して欲しい。 男が煙草を消して姿を消すまで、那月は本に視線を止めてもう一言も話さなかった。
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