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魔法の手
「…綺麗」
タブレットでタロット開封動画を見ながらシュークリームタイム。
「……それ、何?」
いつの間にか戻った大八木がぎしりとベッドを軋ませて隣に腰をおろした。
気付かなかった。
「うん、開封動画」
「…へぇ」
大八木は手に持っていたマグカップをベッドボードに置いた。
「ホットレモン…喉、楽になるかも」
「ありがと」
大八木は那月の隣りでベッドボードに背中を預けて、手に持ってきた五線譜を眺めている。
「ねぇ律人」
「…ん?」
「話してくれてありがとう」
大八木は五線紙から顔を上げて、那月の肩を抱き寄せた。
「酷い扱いだったよな…ごめん」
「え?…あはは、ワイルドモードだったね。…大丈夫だよ、私身体は頑丈なの」
荒々しさはあったけど、決して粗雑に扱われた訳ではなかった。
「…この間、聞いたろ?…色の事」
「うん、ピンクとレモンイエロー?」
頷いた大八木が、那月の膝の上のタブレットを引き寄せた。
お気に入りに登録されていたのは、カシミアのブランケットだった。
「お袋にさ、どっちが良いか迷ってて…」
肌触りの良さそうなシンプルな物だ。
どうしてどちらも当てはまらなかったのか、不思議に思った那月だったが、それを訊ねる前に大八木が答えてくれた。
「ピンクは、お袋がよく着てた色でさ…でも撮影の件で自信を無くしてから着なくなったんだよ…」
それで、と大八木が続けた。
「レモンイエローは、親父がその時着せたワンピースの色だった。…よく、似合ってたんだ」
ああ、と大八木が立ち上がりクローゼットに歩いて行った。
掛けてある服をかき分けて、シルバーのフレームに入った大きな写真を持ってきた。
「…すっ…ごい綺麗…」
レモンイエローのワンピースでカラーの花束を持った女性。
伏し目がちに僅かに微笑んで窓辺に佇んでいた。
「親父がその時撮りたかったお袋なんだよ…綺麗だろ?」
「…うん」
ナチュラルで、柔らかで…凄く。
「……綺麗」
大八木に似ている。
いや、大八木がこの女性に似ている。
「…でもお袋の求めてた物と違ったんだろうな…」
悲しげに微笑んで、大八木の指がお母さんの姿を指でなぞる。
「…」
「…」
日々の子育てに一生懸命で、きっと少し疲れたんだろう。
愛おしいと思いながらも、世間に置いていかれた気持ちになったんじゃないだろうか。
最愛の夫が重きを置く写真に、自分の存在が遅れを取ったのだと勘違いしてしまった。
「…お父さんが、よく使っていた色とか…無いのかな?」
「ん?」
ほんの思いつきだった。
けれど、それがきっかけになるのでは無いかと思った。
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