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「…ふぃ~、余は満足じゃ…」
「…」
せっかくだからと屋上に出て、サンドイッチとレモンジュースの昼食。
ポンポンとお腹をさすった那月。
「…そりゃあ…よかったな」
大八木が引く程食べた那月。
具合が悪い時は食べなきゃ治らない。
おばあちゃんの格言だ。
「…ねぇ、律人」
「ん」
食べながら考えていた事を切り出した。
「律人の冷蔵庫に、私のシフト貼っていい?」
「は?」
「昼は本屋さんで働いてるんだけど、シフト制だから、休みがバラバラなの」
「うん」
「シフト貼ってたら、私の休みが分かるでしょ?…あ、水曜日はとりあえず固定だからね」
「…うん」
「だから、用事があったらすぐ呼んで。ライブだってガンガン手伝うからね!」
いつだって、ちゃんと捕まえられるとわかって欲しい。
何処に居るか把握出来るという安心感をあげたかった。
携帯ひとつでいつでも繋がれる世の中だけれど、それだって繋がらない時はある。
仕事中だとわかれば不安は少ないだろうと思った。
「…うん、貼って」
ぽそりと大八木が答えた。
少し照れたような、子供みたいな表情だ。
良かった、思いつきは間違いではなかったみたいだ。
「あ、そう言えば那月…」
「うん?」
大八木が立ち上がって柵に近づいた。
煙草に火を付けて、振り返る。
「この間、お前の話し聞いた時…言おうか迷ってやめた事ある」
「え?なぁに?」
「…お前、誰とも違うぞ」
「…は?」
意味がわからずに首を傾げた那月を、大八木は面白そうに見つめていた。
「声も、手の動きも…考え方も…全部…お前は綺麗だ」
「…う、ええ?」
いきなりの直球にたじろいだ那月に、大八木は言った。
「お前とその他は違う。…俺に取ってお前はお前だけで…手が届かないからって代わりで満足出来る相手じゃない…お前じゃないなら…他を欲しいとも思わない」
言葉も出ずにただポカンと口を開けた那月の瞳がみるみる潤んだ。
「あの、美味そうに笑った顔を見た日から…多分お前が好きだった…俺を選んでくれてありがとう」
「…う、うぅ…はいぃ…どう、致しましてっ」
「…っ、ははっ、ブサイク…」
誰のせいで泣いていると思ってるのと立ち上がり、突進して抱きついた。
「あ、ぶねぇな…お前火が…」
片手で受け止めて煙草を遠ざけながら大八木が笑う。
「…怖かったんだ多分、お前にハマって逃げられるのが…もう、逃げられる前に拘束してでも繋ぎとめるって決めた」
行儀悪く煙草を指で弾いて灰皿に入れた大八木が、長い腕で那月を抱き締めた。
「…もう、諦めるのも…そんなもんだって納得するのもやめる」
泣きながら頷く那月の額に、誓いのようなキスが落ちる。
「…明日も、明後日も…ずっと俺と居ろよ…な?」
「うん…うん、ずっと居るよ…当たり前でしょ?」
ぎゅうぎゅうと抱き合って、額を合わせて微笑み合う。
穏やかな休日に、二人は共に進む未来を約束した。
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