レンタル天気屋

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 昨日、僕が住んでいる地域に観測史上初の大雨が降り注ぎ、それからその名残のように雨が絶えず降るようになった。  僕は今日こそは雨が止むだろうと小雨の中、傘を持たずに高校に行った。予想に反して学校から帰る途中で大雨が降ってきて、あわてて雑貨屋に駆け込んだ。  雑貨屋でバスを待ちながら雨宿りをしていた。連日続く雨に心底うんざりする。  バスが来る時刻まで、まだ時間があったので、なんとなく店内を見渡すと一人の女性が目に止まった。肩まで黒い髪を伸ばした華奢な女性だった。  僕の視線に気づいて、優しい顔を向けてくれた。目の前にいるのに、どこか遠い世界にいるような、不思議な印象を受けた。  穏やかな表情、透き通るような肌が魅力的だった。僕はこの人も雨で困っているのかなと思って声をかけた。 「こんにちは。雨宿りですか?」 「こんにちは。いえ、雨を見て楽しんでいます」 「雨を楽しむ?」 「はい。雨の音、雨の匂いを楽しんで、私は潤っています」  とても変わった人だなと思った。でも、雨の音が心地良く聞こえる時もあるかな。  バスが来るまでの間、その人と話していた。その人はずっと笑顔を絶やさず、僕の心まで温かくなるようだった。  雨はそれからも毎日、降り続けた。僕は傘を持っているのに、その人がいるかもしれないと思って、雑貨屋に行くとバスが来るまで話していた。それがしばらく続いた。  僕は会話を重ねるうちに彼女に恋心を抱いた。彼女の名前は月下雫(つきしたしずく)だと教えてもらった。学校で授業を受けている間も、早く終わって雑貨屋に行って彼女と話したいという思いばかりだった。
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