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死神
死神の入場だ
どうやら僕専用の作戦でこの拠点を落とすようだ。作戦の内容を聞いてみて驚きを隠せなかった。その作戦とは目標地点全体を煙幕で覆うというものだ。煙幕で覆ってしまったら何も見えないじゃないかと質問した。しかし帰ってきた答えにまた驚かされてしまった。
「煙幕で覆ってしまったら何も見えないじゃないですか」
「敵は…ね」
「君には恨めしくもその鬼の眼とやらがあるじゃないか」
恨めしくも…?なぜここまで強力な力を恨めしいと表現するのだろうか。
「…そうですね」
「君には期待している」
「お任せください」
そうして僕は今目標拠点を上から見下ろしいる。煙幕を撃ったら作戦開始の合図らしい。有無を言わさず煙幕が放たれた。この鬼の眼は自分の指紋でのみ起動するらしい。そして敵が全滅するまで終了しないらしい。そして自分の手を眼の前に動かしてみた。すると頭の中でAIのような機械の声が響き渡った。
-指紋認証システム起動-
-指紋情報認識中-
•••
-指紋認証完了-
-キラーアイ起動-
その瞬間頭の中に膨大な情報が入ってくる感覚があった。そうして5秒経たないうちに敵の姿がはっきりと見えるようになった。見えるだけでなく脈拍や体温までわかるようだ。一体これはなんなのか。どうやらメルヘンな物ではなく機械のようだが。考え事をさせてくれるのはここまでのようだ。次に浮かんできたのはただひたすらに殺戮衝動。この世の生物全てを消し去る勢いだ。自然と引き金の指に力が入る。
「始まるぞ」
「あぁ…」
そこからはあまり覚えていない。ただひたすらに悲鳴が聞こえていた事意外は。気がつくと辺りは地獄だった。なぜこの状況になったのかは持っていた銃が弾切れになっていたのと、持っていた短刀が真っ赤になっていたことが物語っていた。1番恐ろしいのはここにあったであろう沢山の命の灯火を自分が刈り取った事を全く覚えていない事だ。この鬼の眼が自分を操ったのだとしたら…。この機械はなんなのか。
その時赤い煙と共にサイレンが鳴り響いた。血のような真っ赤な煙とサイレンが作戦終了を祝福しているかのようだった。実に不気味だ。そんな中でとある端末を見つけた。なぜ見つけたかと言うと鬼の眼が反応したからだ。中の情報を見ようとした時鬼の眼の付いている右目が燃えているかのような激痛がはしった。
まるで…まるで中を見るのを拒むように。無理矢理見ると次の瞬間痛みなど感じないほどの情報を見つけた。そこにはこう書かれていた。
極秘情報 鬼の眼について
中身を見ると多数の人間の名前が書かれていた。ただその右横に全て実験中に死亡と書かれていた。最後まで読むと1人だけ死亡と書かれていない人間がいた。名前を見たところで完全に右目の痛みは消えていた。
その名前は僕の名前だったからだ。
さらにその下を読んで疲れは全て消え、完全に憎悪になった。それに加え、再び殺戮衝動が浮き出た。先程とは比べ物にならない程のだ。
全て僕の国、ライヒからの拉致者と書いていた上、親族や記憶は全て抹消済み
と書かれていたからだ。これが本当なら…。僕は敵国を滅ぼさねば気が済まないような気がした。さらに下を見ると
鬼の眼使用中について
と書かれていた。読むと、鬼の眼は今までの英雄の記憶と書かれていた。英雄の記憶とはなんなのか。まさかこの鬼の眼は前にも使われていたのかもしれない。また、鬼の眼の使用は英雄の記憶に触れることであり、かつての英雄を喚びだす事とも書かれていた。なぜ持ったこともない武器の分析ができ、使用できたのかが全て結びついた。
なら僕は今までの英雄の先を行く
鬼の眼の故郷を潰シツクス…
命の灯火があるのだとしたらそれを全て消し去るのはどんなに楽しいだろうか。その直後は人の笑い声とは思えない獣、そう、鬼の笑い声が響いた。ここから、幾千、幾万、幾億の命の灯火が消えることになる。
「お疲れ様でした」
「あぁ…」
(なんだか先輩の様子がおかしい)
(まるで鬼の眼の全てを知ったかのようだ)
(英雄達の魂を憑依したかのようにも思える)
英雄達の魂を憑依した者は英雄達の無念をそのまま受け継ぐ事になるので収まることのない破壊、殺戮衝動が襲ってくるのだという。この衝動が収まることは今までなかったらしい。うわさによればこの世界にはかつて遥かに栄えた文明があったという。だが、1人の鬼の眼所有者の英雄によって僅か2日でその文明は滅ぼされたらしい。伝説上のお伽噺のような話だがこの残骸を見れば納得できてしまう。この文明が滅んだ後もその衝動が収まることはなかった。少し前までこの滅んだ世界には全部で10の国があった。今では2つになってしまった。8つの国はその鬼の眼所有者の英雄によって1週間経たずに滅んでしまったという。噂によると抵抗する暇を与えてくれなかったという。8つの国の王の最後の言葉は全員同じだったらしい。
お前は人間じゃない …と。
まさに鬼の形相という訳だ。人間とは思えない笑みを浮かべ、1人しか居ないはずなのに数多の視線が襲ってきたとも言っていた。蛇に睨まれた兎のように抵抗できずにそのまま刈り取られるという訳だ。そして部下達は煙に巻かれたまま気付けば首は飛んでいたらしい。その調子で8つの国はあっという間に占領され、滅ぼされたらしい。なぜこの2つの国、フリーデンとライヒだけターゲットにならなかったのか8つの国が滅んだ今、知る方法はない。ただ、この2つの国には英雄のお伽噺が多数あった。歴史が長いという事もあるだろうが、他の8つの国には英雄のお伽噺がなかったという。フリーデンにはお伽噺とは呼べない、子供に聞かせられない話が多かった。ライヒには子供達に希望を与えるような正真正銘のお伽噺が多かった。そのお伽噺の力のおかげかフリーデンとライヒだけは滅びの道を歩まずに済んだ。その後の鬼の眼の所有者の英雄は何処に行ったのか知る人はいない。なぜなら全て彼が滅ぼしてしまったからだ。滅んだ上に滅びを重ねた。まさにお伽噺の悪役のような人物だ。フリーデンにはそのような話が多かったので、彼は今フリーデンに居るのかもしれない。だが、今宵この世界は1つになる。強制的に1つになる。今、英雄達の魂を憑依した鬼の眼の所有者が喚びだされてしまった。先輩はこのまま1日もしないうちにフリーデンを滅ぼしてしまうだろう。お伽噺のように進めるのなら誰かが止めるべきなのだろう。だが英雄達の魂を憑依した者を止めるなど同じ英雄達の魂を憑依した者にしかできない。毒には毒という訳だ。だがかつて8つの国を滅ぼした英雄は見つからない。
なんて戯言を言ってみた。
「先輩は俺が止めなきゃな」
かつては8つの国を滅ぼした悪役の英雄になった俺だが、今度は本物の英雄になれるかもしれない。だが、正直フリーデンが滅びたところで何も起きないだろう。さすがに8つの国が滅びた時は大騒ぎになった。あの1週間のうちに幾千、幾万、幾億の命の灯火が消えたのか今では思い出せない。俺の殺戮話をお伽噺として話される日をずっと待ってきた。だが、フリーデンでも話される日は来なかった。ならそんな国は必要ナイ。先輩はこのまま俺と同じ鬼道を辿るなら今日中に世界はライヒだけになる。
ソノ世界デいい
昔滅ぼした国もくだらない戯言ばかりを吐き散らし、どうでもいい事ばかりを言っていた。だから滅ぼした。浄化といってもいい。いらないものは排除する。ただそれだけ。
やがてフリーデンがある方向から爆発音がした。ついに英雄達による復讐ともいえる浄化が始まった。自然と俺の中の英雄達も疼き出す。先輩は今宵1つの国を滅ぼすだけでなく新たなお伽噺を作る。そのお伽噺を継承していくのは俺の役目ではない。俺はそのお伽噺作りを手伝う事はできない。…はずだった。かつて8つの国を滅ぼしたことで収まった衝動が喚び覚まされたように英雄達の魂の意思とともに大きくなっていく。また俺はお伽噺を増やしてしまうみたいだ。そう、フリーデンにあるお伽噺と呼べない話は全て俺が作ったものだ。ライヒにある正真正銘のお伽噺を作った英雄は俺の中の別の英雄の魂が作ったものだ。今回はどっちかな。恐らくお伽噺と呼べないだろう。だが、俺が干渉しなくても先輩によってそれは出来てしまう。フリーデンのお伽噺とライヒのお伽噺は数に圧倒的な差がある。フリーデンのお伽噺の数の方が多い。これも全て俺の人格のせいだろう。そろそろ幾千、幾万、幾億の悲鳴と共に命の灯火が刈り取られる頃だろう。
英雄によるお伽噺作りが始まる。
俺はその中のほんの一部の旋律にのりたいと思った。俺の英雄達を喚びだすのは何百年ぶりだろう。俺もお伽噺作りを嗜む人間として、…いや8人に人間じゃないと言われたら人間じゃなく、
鬼なのだろう
完全に鬼の眼に憑依された今、人間に戻りたいとは思わない。ただ、お伽噺は鬼でも作れる。この物語もこの先の幾千、幾万、幾億の英雄によって紡いでいかれるだろう。喜ばしい限りだ。
「英雄達、行くよ」
俺には先輩のような認証は必要ない。だって俺自身鬼そのものなのだから。フリーデンで鬼の笑い声が響いている。
2人の英雄達の魂の主、死神によるお伽噺作りが始まる。
母親が子供達にお伽噺を聞かせている。
「昔、この世界に2つの国があったの」
「今は1つしかないよ?」
「2人の英雄と呼ばれる人達が世界を1つにしたのよ」
「その2人は今、何してるの?」
「わからないの」
「でも…」
母親は空を見ながら言う。
「またお伽噺を作ってるのかもしれないわね」
そんな話を上から聞いていた2つの鬼の影があった。この2人の鬼は今日も行動する。犠牲になった幾千、幾万、幾億の魂達のためのレクイエムを作るためか、
子供達に聞かせるお伽噺を作るためか。2人の死神の物語はまだ終わらない。
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