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 おすすめのアルバイトってある?それとも、今何かしてるバイト、してきたバイト。何でもいいけど。 スーパーのバイトってのは、世の中に無数にあるバイトの中でも一番ぞっとしないバイトだと思う。特にレジ打ちなんてのは、最悪だよ。 来る日も来る日もずーっと同じ作業で立ちっぱなし。品出しとか商品の整理とか他にやることがあれば気が紛れるんだろうけど、なまじ中途半端に大きいスーパーなもんだから、それもない。延々と商品のレジを打つ作業。ピーク時には、もうゲシュタルト崩壊起こしそうなほど、忙しいし、言うセリフもレジの動作もほとんど決まってる。 「おいっ!!このパン潰れてるじゃないか!変えてこい!!」  クレーマーだって多いしな。パン潰れてるって、あんたのカゴへの入れ方が悪いんだよ。って言いたいのをぐっと堪えて、申し訳ございません、直ちにお取替えいたしますと頭を下げる。あーあ、こんな商売って無いよ。全く。  それに意外と同じ顔ぶればっかりなんだよな。もう3年もやってれば大概のお客さんの顔は覚えちゃった。ほら、あのいつも酒臭いロシア人のおっさんとかサーモンピンクのワンピース叔母さんとか、女好きのスネ夫ヘアーとかな。ああ、ぞっとしない。絶対、賄いがでる居酒屋とか、家庭教師のバイトでもしてた方が楽しいって。  でも、そんな俺がバイトを続けてる理由があるんだ。 「長倉先輩。俺が、パン変えてきますね。」  と俺の耳元でその理由が囁く。あ、不意打ちはズルい。アメリカのカートゥーンでよくあるみたいに、心臓が胸から飛び出るんじゃないかってぐらい、ドキドキした。今もドクドクと早鐘が鳴っているのが分かる。 「え、そう?じゃあお願い。助かるわ。」  一生懸命平静を装って言った俺の言葉に、相田君はニコっと輝く白い歯を見せて微笑むと、クレームをつけてきたおっさんに向かって、ペコリと頭を下げてパン売り場の方に向かった。俺も、もう一回申し訳ございませんでした。と言って残りの商品をレジ打ちし続けた。 次は、温厚そうで、ニコニコした年配のご婦人だから良かったけど、ああいうクレーマーは、本当に絶滅してほしい。 そして俺はレジを打ち続けながら、潰れかけたパンをバックヤードに持っていってくれた、彼のことを考えていた。相田君の方は見なかったけど、でも気持ちは彼の方を追いかけていた。そう、彼はこの地獄のような俺のバイト時間を彩ってくれる、俺の推しだ。
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