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「先輩は部活とか、やってるんですか?」
あるとき、俺と相田君は隣同士のレジに入ってた。ずっとお客さんで来てると、あまり見ない光景かもしれないけど、レジが隣同士だと、暇な時間は結構喋ったりできる。隣が大人しい人だったり、少し怖い先輩だったりすると、暇な時間は苦痛だけど、相田君はさっきも言った通り人懐こくて、誰にでも話しかけてくるんだ。
「あ、俺はアカペラサークルで歌ってる。」
「え!アカペラなんすか!すげえ、俺歌苦手なんすよ。先輩の歌聞きたいな。」
「アハハ、ありがとう。でも俺歌うのは好きだけど、そんなに上手いわけじゃないよ。リードボーカルもしたことないし。いつもベースか、たまにハーモニー。」
「えー、でもメロディにハモれるってことですよね。凄いっすよ。今度誰かとハモってるの、聞かせてください。」
「ま、まあ機会があったらね。相田君こそ、歌上手そうだけど。」
「いやいや、俺なんか全然っすよ。カラオケで歌ったら、バカにされるから、絶対歌わないですもん。」
ハハハ、俺なんかの歌聞いたって、面白くもなんともないよ。ハモれるの凄いったって、練習すれば誰でもできるしな。それに、何だかんだ言って上手いやつはリードボーカルをやると相場が決まってるんだ。
「相田君は、サッカーやってるんだっけ?」
「そうっす!小学の時から、サッカーっす。」
「サッカーの方が凄いよ。俺、全然運動ダメだからさ。」
「アハハ。なんかそんな感じしますね。」
「ウッ。爽やかな顔して、意外と直球ストレート。」
「フフ、俺の歯、整形とか言ってバカにしたお返しです。でも、俺も自分が苦手なこと出来る人、憧れるから、おあいこですね。」
俺は、ニコニコと屈託なく笑う相田君の笑顔が眩しくて、思わず顔をそむけてしまった。
丁度タイミング良く、相田君の方にお客さんが来たから、多分赤くなってる顔も見られずに済んだと思ってる。どうしよう。もしかしたら、今までバイトしてきた中で、一番楽しいかもしれない。それと、歯に関してはバカにしたわけじゃないんだ。ただあんまり綺麗だったから、ついつい、作り物じゃないかと思っただけなんだ。
それから俺は、相田君と隣のレジになる日を待つようになった。
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