氷中花、溶けた

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 何を?とは、籐子さんは言わなかった。言わなくても彼女には、伝わったのだろう。ゲンさんの質問に答える代わりにキッと彼を睨んだ。 「アレを何処へやったの?傷一つでもつけてごらんなさい。ただじゃおかないんだから!」 「アレとは?もしかして、水沢菜月さんのご遺体のことかな?」  ゲンさんを睨んだまま、籐子さんは唇を血の気がなくなるほど噛み締めた。  この状況で、遺体はすでに死亡解剖へ回された事実なんか、とてもじゃないけど、言えないよなぁ。言ったら、最後。籐子さん、何するか分かんないよな。  俺は、最悪のことを想像し、身震いした。 「籐子さん、お料理上手なんでしょ。確か……天ぷら、お得意でしたよね」 「何を言うかと思ったら……天ぷら?あなた、天ぷら好きよね。得意ってほどじゃないけど、一緒に食べる人がいる時には、よく作ってたわよ」  籐子さんとゲンさん。穏やかに話している。話しているけど、二人とも少しも目は笑っていない。
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