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僕の名前は、オルギン・ワインダー。
僕は生まれた時から遺伝子疾患というものだったらしい。その所為で手術を何度もした。だけど、今は普通の暮らしができるほど元気になった。
ただ……。――顔だけは普通じゃない。
多分神様は僕の顔を作る時に眠たかったんだと思う。それか作りながら映画でも見ていたんだろう。だから顔が変。
どちらにしても未だに神様から謝罪の言葉はない。全く、神様も僕のママから教育を受けた方が良いよ。挨拶とかありがとう・ごめんなさいを言わなかったら怒るんだ。それでパパもよく怒られてる。
あっ、でも勘違いしないでね。ママはすっごく優しい。そしてパパはカッコいい。そんなママとパパ、犬のバディのことが僕は大好き。ちなみにバディとはいいバディ《相棒》なんだよ。
僕は家族のみんなが大好きだし、家族も僕のことが大好きみたい。何で分かるかって? だっていつもそう言ってくれるんだもん。だから家にいるとすっごく楽しい。
だけど外の世界は違う。みんな僕の顔を見るんだ。珍しいものでも見るみたいに。たまに眉を顰める人だっている。だから僕はいつも下を見てるんだ。そんな視線は嫌だけど前までは、ちょっと我慢すれば平気だった。
でも今は違う。僕を見る人たち全員が、というより僕を見る視線自体が怖い。
そうなったのは学校のせいだと思う。実は僕も前までは学校に通っていたんだ。本当は嫌だったけどママをガッカリさせたくなくて行き始めた。でも想像通りみんな僕を変なものを見るみたいな目で見るんだ。それは分かってた。
だけどそれだけじゃない。
『化け物みたいな顔』
『よくそんな顔で平気だな!』
『俺だったら絶対に家から出ないな』
……
なんて毎日酷いことを言う奴がいるんだ。
だけどもしかしたらいつか僕にもお友達ができるんじゃないかって思って。我慢して学校に通っていたんだけど……そんなことはなかった。
僕はずっと独りぼっちで毎日色々なことを言われ、たまに叩かれたりもした。辛くて苦しくて痛くて。僕はもう学校に行かなくなった。
ごめんなさい、ママ。そう言うとママは「大丈夫よ」って優しく抱きしめてくれたけどきっとガッカリしてる。
それ以来外に出るのが嫌になった。今まで少しだけ我慢すれば気にならなかった色んな人の視線もなんだか僕を突き刺すように痛いんだ。なんだかみんなの心の声が聞こえてくるみたい。
『なにあの子の顔?』
『えー、きもっ!』
『よくあんなんで出歩けるな』
……
みんな僕に酷いことを言ってるんじゃないかって思ってしまう。
だけど僕は最低でも週に一回は、帽子を被ってマスクをして外に出る。今日も、コートに手袋で防寒対策をして家を出た。確かに外は嫌だけど帽子とマスクをすればみんなもあまり僕を見ない。
それにそうしてでも行きたいお気に入りの場所があるんだ。
僕が外で唯一好きな場所。風を感じて小鳥さんの声を聞いて、一人でゆったりと過ごせる場所。それは近くの小さな公園から少し歩いた所にある木に囲まれた場所。そこには今は使われていない噴水とそれを囲うように置かれたベンチがある。
そう。ここが外の世界で、一番で唯一好きな僕の特別な場所。
「ふぅ~」
ここに来ると世界には自分だけしかいないように思える。特に何をするわけじゃないけどベンチに座って帽子とマスクを脱いでゆっくりとするだけで心が安らぐ。ここでは冷たい風すら心地良い。
この場所は僕だけの特別な場所。
「今日は小鳥さんいないなぁ。――でもこういう静かなのもいいかも」
ちょっと気取ってるって思われるかもしれないけど、僕はこうやって目を瞑って自然を感じるのが好きだ。今日はより一層静かで何も聞こえないけど時折、風に揺られて木々が歌う。
するとしばらくしてそんな歌声紛れて杖を突く音が聞こえてきた。僕は聞き間違えだと祈りながら目を開ける。
しかし、その願いは届かず目の前を杖を突きながら歩く革靴が通った。僕は誰か来たと思った瞬間、反射的に顔を俯かせたから足しか見えなかった。そのまま通り過ぎてくれることを願う。
だけどまたもや願いは無視され、その人はそのまま僕の隣に座った。
「(え? なんで僕の隣? 他にも椅子あるのに)」
心の中で呟くとゆっくりとバレないように隣の人の顔を見上げる。杖に両手を乗せて静かに座るその人は、少し顔の丸いおじさんだった。スーツとベストそしてコートを着こなしてハット帽を被りサングラスが似合うおじさん。
そのおじさんはまるで僕が見えてないみたいに真っすぐ前を向いていた。
「(もしかして気が付いてないのかな?)」
なるべく人と接したくない僕はおじさんが気づく前に音を立てぬように静かに帽子とマスクを着けようとした。
だけど乾燥した手から帽子が逃げるように滑り落ちてしまった。
「誰か。いるのか?」
帽子の落ちた音に反応し聞こえてきた声に少しビクッとなった僕は横目でおじさんの顔を覗く。
だけどおじさんは少しだけ顔をこっち側に動かしていただけで僕の方を向いてない。音のしたこっちを向かないで、しかも隣にいる僕に対して「誰?」じゃなく「誰かいる?」って訊いてきたことを不思議に思った僕は黙り固まってしまった。
「気のせいか」
そう言うとおじさんはまた少しだけ顔を動かして再び前を見た。僕はほんの数秒だけおじさんの顔を見ていた。
「目が見えないの?」
思った疑問をそのまま口にした。おじさんはそういう感じだった。
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