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しばらくしてようやく涙が止まった私と兄は、共にソフトクリームを食べにいった。今度は私のおごりで。
適当なお店がなかったので、コンビニのソフトクリームだけれど、予想外に美味しかった。
「妹におごってもらう兄貴なんて情けないなぁ」
「ソフトクリームぐらいで大げさね、お兄ちゃん」
ひとつのソフトクリームを二人で分け合うのはどうしても嫌だと兄が言うので、一人一本ずつだ。
私としては昔みたいに交互に食べたかったんだけどな。
コンビニの軒下で、兄と横に並んでソフトクリームを食べる。幼い頃の思い出とは違うけれど、それでも十分に幸せな気持ちだった。
「兄貴としては、妹におごってやりたいんだよ。こんな身なりだけど、一応面子ってものがあるからさ」
そういう兄の服装はあちこちがほつれていて、古着なんだということがよくわかる。髪もほとんど手入れしてないようで、ぼさぼさになっている。
兄の航は河川敷でホームレス生活を送っていた。
母に見捨てられ、友人にも裏切られたお兄ちゃんは生きる希望を失い、流れつくように河川敷に来たのだろう。
「でもお兄ちゃんがあまり遠くにいなくて良かった。おかげですぐに会いにこれたもの」
ひょっとしたら海外にでも行ってしまったのでは? と一時期は思ったけれど、わりと近くに兄はいたのだ。
「七海がさ、大学生になったってことは人づてで知ってたんだ。地震とか火事とかストーカーとか、なんかあったら大変だと思って、つい近くに来ちまった。浮浪者同然な今の俺が、七海にしてやれることなんて何もないのにな」
「お兄ちゃん……」
兄は今も私を守ろうとしてくれていたのだ。不器用な方法ではあるけれど、その思いがとても嬉しかった。
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