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2.大切な同期
「田所さんいないと昼食もつまんないですね」
翌日。自分のデスクでコンビニ弁当を食べていると、真後ろにいた後輩の小林が振り向きざまに言った。この後輩は今年入社したばかりだがすでに田所信者で、仕事一筋の同性先輩に憧れを抱いているらしい。後輩に好かれることを悪く思わないのか、田所も鬱陶しがる様子はなく、むしろ妹のように可愛がっている。
いつも田所は俺の前のデスクで一緒に昼食をとりながら、契約件数についてマウントを取り合うのだが、昨日からそれがない。小林も俺たち2人の会話をニコニコしながら聞いていたのに、その会話が無いとなるとつまらないらしい。まぁ、俺も張り合う相手がいないとなると、つまらない気がしないでもない。
「そういえば杉本さん、昨日田所さんのお見舞いに行かれたんですよね? どうでした? 元気そうでした?」
そう聞かれて昨日の田所を思い出す。病室の窓際、病院着でベッドに座っている様子、細い腕から伸びた点滴の管、結んでない髪の毛——
見た目には元気そうではあったが、俺には計り知れない、昏い感情を持っていたのかもしれない。「大丈夫だ」と笑った笑顔の下に、本当は涙が隠れていたのではないか。
「杉本さん?」
「え、あ、うん、元気だった元気だった。何か食べもん持って来いって言うくらいには元気だった」
「そうですか。それならよかった」
早く復帰して欲しいなぁ、と小林は恋焦がれるような表情をして自分のデスク側を向いた。
後輩に心配させるようなことを言ってはいけない。仕事が手につかなくなっても困るし、変な噂が立っても困る。復帰した時に田所が働きづらくなっても困る。
同期として俺が出来ることはただひとつ。
田所が無事に手術を終え、仕事復帰できるように最大限バックアップすることだ。
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