2.大切な同期

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***  明けた今日は手術日だったが、無事に終えたかどうか気になったので病院に行くことにした。今日は水曜日で会社は定休日だ。手術は朝10時から11時半までの予定だと聞いていたので、なんとなく13時に病院へ向かう。  病室に行くと、昨日いたはずのベッドに人影がなかった。それどころかベッドメイキングがされているのか、シーツにシワひとつない。慌てて入口のプレートを見たが、田所の名前はちゃんとあった。あれ、まだ手術中? 嫌な予感がして、ナースステーションに駆け寄った。 「すみません。田所真由香は昨日から病室が移動になりましたか」 「田所さん? いえ、病室はそのままですが……あ、今日オペしてリカバリールームからまだ戻ってないですね。オペ時間が押して12時すぎに終わって……3時間は様子見なのであと2時間ほどで戻ってくる予定です」  近くにいた看護師さんがそう教えてくれた。  リカバリールーム……大層な名前の部屋名に心臓がドクドクと脈を打ち始めた。簡単な手術だと笑っていたのに、オペ時間が押したとはどういうことか。動揺を悟られないようにひと呼吸おいて看護師さんに聞いた。 「田所に会えますか」 「えっと、失礼ですけど、ご家族ですか?」 「いえ、会社の同僚です」 「あー……すみません。リカバリールームは医師と看護師しか入れないので……」  医師と看護師しか入れない——それはすなわち、重症患者のいる部屋だということではないか。  脈打つ心臓に対して手足が冷たくなってきた俺は、どうすることもできず、病院を後にした。  帰りながら考える。最近の田所の様子で、どこかおかしなところがなかっただろうか。例えば朝礼の時はどうだった? 立って部長の話を聞くとき、辛そうにしてなかっただろうか。仕事中はどうだ? お客様に物件を紹介するとき、どこかしんどそうにしてなかっただろうか。昼休憩中は? 食欲が無さそうだったりしてなかった?  考えても思い当たる節は見つからず、同期の異変に気が付かなかった自分を呪った。自分自身に殺意さえ抱く。  しかし、長く一緒に働いている俺にさえも自分の体調不良を上手く隠していた田所に、もっと優しくすればよかったと後悔も抱いた。
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