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「水曜日、お休みじゃないですか。杉本さん、暇だったら迎えに行ってあげたらどうです?」
「え、俺が? 別にいいけど……じゃあ、小林も来る?」
「私は用事があるので。木曜日に存分に甘えさせてもらおうと思います」
小林はそう言って「田所さぁんがぁ、帰ってくるぅぅぅ」と独特のこぶしを効かせはじめた。
……迎え、か。まぁ病み上がりだし当分見舞いに行けてないし、病院から出た時1人だと可哀そうだしな。一応『何時退院? 迎えに行こうか?』とメッセージを送ると『朝9時。来て来て~』と返事が来た。スマホをポケットに仕舞うと、なぜか小林がジッと見てくる。なんだ? 顔に何か付いてる?
「どうした?」
「いや。杉本さん、田所さんが入院してから優しいですよね。なんか、棘が無くなったというか丸くなったというか」
「え、俺、ツンツンしてた? そんなつもり全然なかったけど」
「んー。私に対してじゃなくて、田所さんに対して、ですかね。いつもはいがみ合ってるのに、入院したらお見舞いに行ったりしてるじゃないですか」
言われてそうかと思った。まぁ確かにいつもは口喧嘩というか、顔を合わせれば今月の契約件数は俺が上だとか私が上だとか優劣を競い合って、相手をどう蹴落としてやろうかとばかり考えていたが、いざいなくなってしまうと心に隙間ができるというか、顔を見ないと気が済まないというか……うーん表現が難しい。とにかく田所が入院してあの姿を見た時に思ったのは、優しくあろうという気持ちだった。
「同期って大事だなっていう気持ちが芽生えたんだ」
そう言うと小林は、両眉を上げて俺を見た。
「それ、『田所さんって大事だな』じゃないんですか」
「えっ」
「えっ」
何言ってんのこいつ。
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