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3.昨日の敵は今日も敵
空は、気持ちがいいくらいに晴れていた。朝の空気は心なしか爽やかで、鼻から吸い込むと山に囲まれているわけでもないのに、マイナスイオンが体内に入ってくるのではないかと勝手に思う。
「おお、シャバだぁ」
久しぶりの外なのか、退院した田所が光合成よろしく、両手を広げて日光を浴び始めた。「くぅ、染み渡る~」などと、仕事終わりにビールを飲んだような感想も漏れる。
「よかったな、無事に退院できて。割と結構心配した」
「ありがと。言ったでしょ、大したことないって。それよりさ、杉本。今日休みなのにわざわざ来てくれてありがとう。仕事も迷惑かけました」
深々と頭を下げるもんだから、かえってこっちが委縮する。「やめろやめろ」と頭を起こさせた。
「張り合い相手がいないとさ、仕事ってつまんねーんだよ。今回田所が入院してそれに気付けた。やっぱりライバルって必要なんだよな」
「お、今更私の大事さに気付いたか。だったら入院も悪くなかったかな」
いつもより少し高めの位置でまとめてある髪を揺らして、田所はニシシ、と笑った。
その笑顔の裏に隠された、ひとりで抱えきれない闇があるなら、半分を俺に分けて欲しい。そんな思いが沸き上がる。同期として、良きライバルとして、これからも田所と一緒に仕事をするなら、彼女のことをちゃんと知っておきたい。俺は意を決して田所に訊いた。
「なぁ、田所。結局、何の手術だったんだ?」
窓際のベッド、吊るされた点滴、白いネームバンド、手術、麻酔、リカバリールーム。思い出すと胸が痛くなる光景が渦を巻く。もし、田所が大きな病を抱えていたら。もしそれがガンとかだったら……
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